FC2ブログ

サイドストーリー4つめ。本編6話の裏話で、ほとんど空気だった先輩たちのお話です。つまりカイメイ。
カイトは鏡音と絡ませると「お兄ちゃん」ですが、めーちゃんと絡ませると甘ったれになりますね……私だけか。


小さなおせっかいと贈り物

「――ん……めーちゃん!」
「えっ……」
「もー。めーちゃん、僕の話ちゃんと聞いてた?」

 ほわりと湯気を立てる紅茶を眺めていたら、いつの間にかぼうっとしてしまっていたらしい。生返事に痺れを切らせたのだろう。目に前に座る細身の男は、歳に似合わぬふくれっ面でじっとりと私を覗きこんでいた。
 12月も半ばに差し掛かり、町はどこもかしこもイルミネーションに彩られている。あと二週間もすればクリスマスだ。私たちのいるこのカフェでも、入口に鎮座している大きなツリーがチカチカとカラフルな光を撒き散らしていた。
 イブの予定を立てていた所までは覚えている。集合場所と時間もちゃんと確認した。その後は―――…

「あー……ごめん、聞いてなかった。何だっけ」

 嘘をついても仕方が無いので素直に白状すると、カイトはがっかりした様にため息を吐いた。いや、だってなんかどうでもよさそうな話だったから……。

「だーかーらー。うちの後輩が君んとこのリンちゃんと全く進展が無くて、どうしたものかと!」
「なんだ、またその話……」

 どうせ大した話じゃないのだろうと思ったら、案の定だ。放っておいてあげればいいのに、このお節介男といったら……。

「あのね。わかってるとは思うけど、二人はまだ付き合ってすらいないのよ?あんたが後輩君に肩入れする気持ちもわからなくはないけど、少しは鏡音さんの意思も尊重してあげなさい。それに、こういうのは部外者が首を突っ込むべき問題じゃないの!」
「えー……だって、二人が再会したのはクオ君達の」
「あんたまで同じ事をやらなくてよろしい!」

 怒鳴り声に言葉を遮られたカイトは、びくっと肩を竦めて縮こまる。その迫力に手前の席の男までもが驚いた様に振り向いたけど、そんな事はどうだってよかった。あーもう、どうして私の周りには、こう野次馬精神にあふれた問題児ばかりが集まるのかしら?


 合唱部の後輩、鏡音リンさんに関するアレソレは、彼女の友人達の雑談からもある程度把握していた。確か落し物を拾ってくれた見知らぬ男子にナンパまがいの言葉をかけられ、お礼もそこそこに逃げ出して来たんだっけか。
 その少女漫画の様な出会いに騒ぎ声を上げる野次馬どもを見かねて、「ちゃんと彼に謝って来い」と彼女を諭したのは私だ。でも、相手の子が彼女を避けるほどショックを受けているとは思わなかったし、彼女は彼女で真面目な性格だから、その責務を果たすまでは彼を探すことをやめないし……。他人の問題に迂闊に口を挟むと碌なことにならない、という事がよーくわかった。
 取りあえず、それ以上の干渉はせず様子を見守る事にしたのだけど、そこでこの事をカイトに話してしまったのは失敗だった。だって、その男の子がカイトの後輩だなんて思いもよらないでしょう?しかも鏡音さんに好意を抱いてると来た。重なる偶然にカイトは興奮気味だったけど、その展開はあまりにもベタすぎる。……ちょっぴり呆れてしまったのは、ここだけの話だ。
 そんなこんなで、お互いの後輩が陳腐な少女漫画の様な状況にある事が発覚したわけだけど、余計な口出しはNGだという事も理解している。
 だからカイトには「絶対に首を突っ込むな!」とあれほど念を押しておいたのに、いつの間にか鏡音さんの素性をバラしているし、挙句「僕達が二人を結び付けてあげようよ!」なんてバカみたいな事を言い出して、この男は……!初音さんや彼女の従兄弟が何か余計な事をしでかしたらしいけど、本来その行為を咎めるべき私たちが同じ様な事をしてどうするのよ!?

「いや、でももうすぐクリスマスなんだよ!告白のチャンスだよ!!何かしてあげたいじゃない」
「全然」
「……めーちゃんはつめたい」
「何とでもおっしゃい!いい?人の恋路に手出しは無用。当人たちに任せて、あんたは黙って見守っていればいいのよ」
「……」
「何か言いたい事は?」
「…………めーちゃん、本当に気にならないの?」
「な・り・ま・せ・ん!」

 ピシャリとテーブルを叩くと、カイトは叱られた子供みたいにびくりと首を引っ込めた。何でそこでビビる?ていうか人の話を聞いていないのはどっちよ!
 あぁ……私は一体いつまでこいつのお守りでいればいいのだろう。「あんな気の弱そうな男と付き合っているだなんて、信じられない!」と目を丸くしていた後輩の言葉がひしひしと身に沁みる。ほんと、どうしてこうなったのかしらね……。
 はぁ、と大きくため息をついた私をカイトはちらりと窺って、やがて恐る恐ると言った感じに口を開いた。

「……でもさ。このまま何もしなかったら、レン君はリンちゃんに気持ちを伝えられないまま終わっちゃうかもしれないよ」
「そうなったら彼の自業自得でしょ」
「慎重になっちゃうんだよ、どうしても。一度フラれてるっぽいし」
「……別に振ったわけじゃないでしょ、あれは」

 鏡音さんを擁護しながらも、私はカイトがこの件に執着する理由がようやくわかった様な気がした。要するに、なかなか思いを告げられない後輩君に昔の自分を重ねているってわけだ。馬鹿馬鹿しい。
 そんな風に思いながらも、脳裏によぎるのは、今の様になる前の私たちの姿―――…



 カイトと私は、いわゆる「幼馴染」というやつだった。腐れ縁、とでも言うのかしら。幼少期にいじめっ子を追っ払ってやったところ妙に懐かれてしまい、以来なんとなく一緒に過ごすことが多くなったのだ。
 振り払うのが面倒くさかった、というのも勿論あったけど、泣き虫なこいつを放っておくことも不思議と出来なくて。今思えば、弟が出来たみたいで嬉しかったのだろう。年下の兄弟ってなんとなく憧れていたから。
 誰よりも心を許せる異性の親友。そんな関係が形を変えたのは、中学三年の冬――確か、受験が始まったばかりの頃の事だ。
 あの日は図書室で勉強をしていたのだっけ。帰り道で偶然カイトに出くわして、そのまま一緒に下校することにしたのだ。
 時期が時期だけに、会話は自然と受験の話になる。それまでお互いにどこの高校を受けるかなんて教えあった事はなかったし、わざわざそうする必要もないと思っていたのだけど、模試の結果があまり良くなかったせいだろう。その時の私は、いつもよりも口が軽くなっていた。
 第一志望が女子高である事を告げると、隣に並んで歩いていたカイトがぴたりと足を止めた。数歩先から振り返ると、想像通り何とも言えない表情で私を見ていて……あぁ、やっぱり。こいつは、私も同じ共学の高校を受けると思っていたのだ。
 小、中と当たり前の様に同じ学校に通っていたものだから、突然の事に動揺したのだろう。立ち去ろうとする私を引き止めたカイトの口から飛び出して来たのは、今まで黙っていた事への非難と―――…このタイミングで告げるにはどう考えても相応しくない、私への想いの告白だった。
 カイトに幼馴染以上の気持ちを抱かれていた事は何となく気付いていた。でも、それをわざわざ確かめるなんて柄じゃないし、幼馴染以上になりたいとも特別思っていなかった。
 だからだろうか。焦っていたとはいえ、そんな気恥かしい事をストレートに言ってくるこいつの姿にびっくりしたし、同時に「なんだ、意外とかっこいい所もあるじゃないか」と関心したのだ。
 その後は、「私の受ける高校と同レベルのあの男子校に受かったら付き合ってあげてもいい」とかなんとか条件を出して、その場をやり過ごしたんだっけ。結果はご覧の通り。カイトには悪いけど、正直本当に受かるとは思っていなかったから、ちょっと驚いてしまった。執念って怖い。
 ……ともあれ、あの時私が別の道に進む事を言わなかったら、カイトは今でも気持ちを伝えられないままだったかもしれない。なるほど、確かにこれは今の彼らの状況に少し似ている。自分が進んでいたかもしれない道を彼が辿らない様、こいつなりに気を遣ってあげているわけだ。
 だとしても、ねぇ…………。
 後輩君には大変申し訳ないけど、鏡音さんの方の気持ちは―――…良くて五分五分、といったところかしら。最初の頃の警戒心や気まずさは大分薄れた様だけど、特別な感情を抱くにはひと押しもふた押しも足りない。このままぼけっとしていたら、本当にただのお勉強友達で止まってしまうでしょうね。
 彼女の気持ちを動かすとしたら――――あぁ、そうだ。

「そんなに手を貸してあげたいんだったら、『これ』あげればいいじゃない」
「え、えぇ!?だってそれは……!」

 私がテーブルの上から拾い上げたのは、ここからそう遠くない場所にある水族館のペアチケットだ。「せっかくのクリスマスなんだし、二人でどこか行こうよ!」とカイトが手に入れてきたものだけど、丁度いい機会じゃない。ベタだけど、イベントに乗じての告白は成功確率も上がるでしょう。

「二人を進展させたいんでしょ?イブに水族館だなんて絶好のスポットじゃない」
「そ、そりゃ、雰囲気もサイコーだとおもうけど……。でもさ!そうしたら僕らは」
「何。あれだけ首を突っ込みたがっていたのに、結局は自分の方が大切?」
「そんなことは、ない……けど…………」
「だったらプレゼントしてあげなさいよ。後輩君、きっと喜ぶわよ?」

 未練たらたらな表情を覗きこんでやんわりと諭すと、カイトは何かを言いたげに口を開きかけて―――…でも、ちょっぴり名残惜しげに頷いた。

 ……わかってるわよ。あんたが優しくて、ここまで言われたら断れないって事くらい。甘ったれで気が弱くて昔から全然頼りにならないけれど、あんたのそういうところ、私は嫌いじゃない。
 水族館はお預けだけど、代わりのプランならいくらでも出せるでしょ。結局、一緒に過ごせるんだったら何でもいいのだから……お互いにね。チケットを譲ってあげたご褒美に、一つくらいはわがままを聞いてあげましょう。私の方から優しくしてあげるのも、たまにはいいかもしれない。




 さて。ヘタレ少年は、朴念仁な少女にちゃんと想いを告げることができるのかしら。
 その答えは、きっと冬休みが明けた頃に、彼女の友人が教えてくれる事でしょう。


スポンサーサイト
web拍手 by FC2

もじゅつめつめ つづき

かがねいお疲れ様でした!

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿





trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。