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続きです。二日目の出来事。
。。。

 四年半ぶりに校門を通り抜けると、気持ちだけでもあの頃に戻ったように思えた。
 約束していたロータリーの前には既に人影があって、リンの心臓も自然と跳ねる。楽しげに雑談している三人の中、校門側を向いていた少女がふと顔を上げた。視線が交わる。
 少女は二、三度瞬きをすると、ぱぁぁ、と目を輝かせて大きく手を振り上げた。

「来た来た! リン、こっちだよー!」

 少女の声に、残りの二人もこちらに顔を向ける。待ちきれなかったのか、走り出した少女の姿に、リンも歩調を速めた。

「キャ――――ッ、リン久しぶりぃ! ちょっと見ない間に可愛くなっちゃって、この野郎っ」
「えへへ、久しぶりミキちゃん。ミキちゃんもすっごく可愛いよ」
「またまたぁー! こんな田舎と違ってそっちはお洒落も何も最先端じゃん、羨ましいぞ~あたしも連れてけ!」

 暑さにも構わずぎゅーっとリンに抱き付いてきたのは、桃色の髪を背中の中ほどまで伸ばした少女、ミキだ。明るくてちょっぴりミーハーなところがあって、小学生のころから何かと流行に敏感だったのだが、どうやらその性格は健在のようだ。

「え、なになに、感動の再会? いいねぇオレも混ぜてオレ――ぐぇっ!」
「バカなこと言ってんな。……久しぶりだね、リン」

 そんな彼女の後ろからひょっこり顔を出したクミヤ――通称ミヤが続いてリンに抱き付こうとしたが、後ろから伸びてきた長い腕に襟をつかまれ、寸前で静止させられる。
 どこか懐かしいそのやり取りに、リンは思わず苦笑を漏らした。

「ユリちゃん……ミヤ君も、久しぶり。二人とも相変わらずだね」
「笑い事じゃないって。なんで私がコイツのお守をやらなきゃならないんだよ」

 そう言ってため息を吐くのは、気の強そうな瞳が印象的なユリ。
 同学年の女子の中でも背の高い方だった彼女だが、ここ数年で更に伸びたらしい。すらりとした立ち姿はリンのクラスメイトが愛読している雑誌のモデルに引けを取らない位で、同性のリンですら見惚れてしまうほどだ。
 ほう、と溜息を吐いていると、ユリの腕の先にぶら下がっていたミヤが苦しげに呻く。

「い、いい加減離せよリリィ! 首絞まるって!!」
「その呼び方やめろって何度も言ってるだろ! お前の頭は鶏以下か!?」
「ぬぉぉぉ死ぬ、マジで死ぬ! リンちゃん助けて!!」
「ほっときなリン、馬鹿が移る」
「ひでぇ!!」

 ミヤの呼称に機嫌を悪くしたユリは、襟を引っ張る力を更に強めたらしい。自分の服に首を絞められて苦しげにもがくミヤの姿に、リンとミキは顔を見合わせて苦笑した。
 お調子者のミヤをユリが怒りながら引き留める、なんてのは小学生の頃もしょっちゅうだった。
 あの頃と違って力もついたのだから、振り払おうとすれば簡単に振り払えるのだろうけど、ミヤが敢えてそうしないのは、意外とこの関係を楽しんでいるからなのかもしれない。ユリにはさぞかし迷惑な話だろうが。
 リンが懐かしさに浸っていると、背後からまた別の声が割り込んできた。

「ほんと、ミヤはいつ会っても変わらないよね。成長しているのは見た目だけで、頭の中はいつまでたっても小学生のままなんじゃない? ――久しぶり鏡音さん、とりあえず元気そうで何より」
「ピコ君……!」

 一足遅れてやって来たオトヒコ――ピコは、リンの前で止まるとにこりと笑いかける。半袖のシャツを首元まできっちり着ているのに、暑そうな様子は微塵もない。髪も肌も全体的に色素が薄く、「雪女」ならぬ「雪男」みたいだとリンは密かに思った。
 ピコはリンに次いで他のメンバーへの挨拶を済ませると、ふと首をかしげる。

「で、レンは? あいつも今日来るんだよね、確か」
「あー、なんかちょっと遅れるって。さっきメール入ってた」

 ひらひらとケータイ電話を振るミヤに、ピコは珍しいね、と呟く。確かに、レンが約束に遅れるなんてことは滅多になかった。どうしたのだろう。
 まだ人の来る気配のない校門を眺めていると、余程心配そうな顔をしていたのか、ミキはリンの顔を覗き込んでニヤニヤと意味ありげに笑った。

「……残念?」
「え?」
「リン、レンとは仲良かったもんねー。早く会いたかったでしょ」
「あ……えーと、実はね、昨日先に会っちゃったんだ」

 困ったように笑うリンに、ミキは驚いたように目を見開く。

「うっそ、レン先に会いに行ってたの? ちょっと意外……」
「そうかなぁ?」
「意外意外。へぇぇ、あのレンがねぇ……」

 うんうん、と何かを考え込むようなミキの様子に、リンの頭には疑問符ばかりが浮かぶ。レンとは昔からよく遊んでいたし、一人でリンを訪ねてきた事に関して特に不思議に思うことは無かったのだが。
 釈然としない気持ちに眉根を寄せていると、道の向こう側からチリリン、とベルの音が響いた。

「わるい、待たせた!」

 ブレーキの音を響かせて校門から滑り込んできたレンは、余程急いでいたのか、汗でびっしょりだった。はぁぁ、と長い息を吐き出して自転車から降りたレンが顔を上げる。……あ、目が合った。
 微かに笑ったような気配に、何か声をかけなければ、と口を開きかけたリンの視界を、両手を腰に当てたミキの背中が塞ぐ。

「遅い! 折角リンが来てくれてるのに、遅刻とは何事だこのヘタレ!」
「だから悪かったって……ヘタレ関係ないだろ」
「関係あ……てゆーか! 昨日リンと会ってたってホント!? 何勝手に抜け駆けしてんの!」
「べっ……別にいいだろ、昨日も今日も大して変わらないんだから」
「変わるってば! ちくしょ~、休み前はあんなにグダグダ悩んでたくせに、ちゃっかり行動起こしてるなんて」
「……悩んでたって?」

 騒がしいやり取りの中聞こえた気になる単語にリンが首をかしげると、レンは何故か焦ったように「何でもないから!」と声を荒げる。
 戸惑いながらミキを見遣ると、何かしらの事情を知っているらしい彼女は軽く肩を竦めただけで、どこか取り残されたような気分にリンはうーんと首をひねった。

「さーて、久しぶりに全員そろった事だし、目一杯遊ぶよー!」

 握りしめた拳を空に突き上げたミキに、「ばっちこーい!」とミヤが続く。ハイハイ、と呆れながら腕を上げるユリに、ピコがため息交じりに続いて。
 隣に並んだレンと一瞬の目配せ。「皆で思い切り遊ぼう――」昨日交わした約束が胸の奥をくすぐって、二人で小さく吹き出す。
 不思議そうに向けられる友人からの視線を受け流して、二つの拳が揃って空に上がった。


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