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久しぶりに顔を合わせる友人同士でバカ騒ぎするっていいですよね。
お休みが終わってしまったので更新速度若干落ちると思われます……

。。。

 まずは校内探検でもしよう、と提案したミキに連れられてリンたちがやって来たのは、人の気配の感じられない薄暗い部屋の前だ。中をそっと覗き込んでみると、壁には植物や微生物のポスター、戸付き棚には整然と並べられたアルコールランプ、ビーカー、試験管――――。
 南校舎一階の真ん中に位置するここ理科室は、実験の時くらいにしか入れない特別な場所だった。滅多に触れなかった実験器具を見ると、今でもわくわくとした気分になる。

「せーんせ! キヨせんせー、いるんでしょー?」

 空っぽの部屋の中をぐるりと見渡すと、ミキは突然窓を叩き始めた。鈍い音が辺りに響き、汚れのついた硝子の板がガタガタと揺れる。
 ちょっと、止めた方がいいんじゃないの、とリンが声をかけようとすると、左奥にある準備室のドアが開いた。中から出てきた人影はゆったりとした動作でこちらに近付いてきて、ミキが叩いていた窓の前で立ち止まる。
 外の景色を映す硝子の板が横に引かれ、中から鬱陶しげに顔をのぞかせたのは、眼鏡をかけた黒髪の青年だ。青年は並んで立つリンたちにさっと視線を滑らせると、一番手前に居たミキを見下ろして、やれやれといった感じに溜息を吐いた。

「まったく、窓を叩くのは止めてくださいっていつも言っているでしょう、美樹さん。割れてしまったらどうするんですか」
「だいしょーぶ、あたしそんなに怪力じゃないもん」
「大丈夫じゃないから言っているんです。そもそも、俺の当番中に何か問題が起きたら、責任取らなきゃならないのは俺なんですよ? クソ面倒なんでやめてくださいよね」
「あはは、ひっどーい。せんせーってホント教師に向かない性格だよね、よく続いてるじゃん」
「余計なお世話です」

 ミキのからかう様な言葉に、青年は不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。彼、氷山清輝はリンたちが六年の時の担任で、生徒に対しても荒っぽい敬語を使う変わり者だった。
 口うるさい上に面倒くさがりと教師としては少々問題ありだが、生徒を見下すような事は全くなくて、意外にも彼を慕う子供たちは沢山いる。リン自身、母の死や父の転勤に関して色々とお世話になった経緯があるので、久しぶりに話せるのがうれしい。

「よっ、キヨ先生ひさしぶり!」
「お久しぶりです、氷山先生」
「どうも」

 ミキの後ろから挨拶をするミヤ、ピコ、ユリの顔を順番に見渡して、キヨテルは頷く。

「お久しぶりです。久弥矢君はちゃんと進級できてるんですか? キミの学習態度を考えると、ちゃんと卒業まで辿り着けるのか心配になりますよ」
「ノープログラム! この間のテストは全教科ギリギリ赤点を免れたんだぜ! 高校上がってから初!! すごいっしょ」
「プログラムじゃなくてプロブレムだぞ、ミヤ。てかその程度でドヤ顔するなよ」
「音彦君の言う通りです。キミも少しは彼を見習ったらどうです?」
「あーもう二人して何なんだよ! 英語の一つや二つ出来なくたって人生なんも困らないだろ、なぁリリィ?」
「……ばーか」
「ぬぉぉぉぉぉっ、オレに味方はいないのかぁぁっ!?」

 大袈裟なほどに頭を抱えたミヤの姿に、みんながケラケラと笑う。
 ただ一人、呆れたように溜息を吐いたキヨテルは、後方に立ったままのリンとレンを見ると微かに目元を緩めた。

「お帰りなさい、鈴さん。あちらの生活には慣れましたか?」
「あ……はい、何とか」
「それは良かった。便利な物で溢れた都会もいいですが、たまには田舎に戻ってみるのも心が落ち着いていいものですよ」
「せんせー年寄りくさーい」
「……美樹さん、キミは少し静かにするということを覚えるべきなのでは?」

 ええー? と笑うミキに、キヨテルはため息交じりに肩を竦める。卒業してから何年も経つが、彼からしてみたらリンたちは未だに生徒の様なものなのだろう。
 リンたちの担任になった時は、確か新任だったはずだ。あの頃の様に生徒たちに慕われて(懐かれて)いるキヨテルの姿を想像して、リンは微笑ましい気持ちになった。

「ところで皆さん、今日は一体何をしに来たんですか?」

 窓枠に反射した太陽光に目がくらんだのか、片手を額にかざしながらキヨテルが問う。

「あっそうだ、せんせー、教室入れてちょうだい!」
「ダメです」
「えー、なんでぇ!?」
「さっきも言ったでしょう、問題が起きたら面倒だって。だいたい、部外者は立ち入り禁止ですよ」
「部外者じゃないもん、卒業生だもん! ねぇいいでしょー!」
「そーだよ、ちょっと位いいじゃん! バレなきゃ問題ないんだし!」
「またキミたちは……」

 ちっとも引く気のないミキにミヤが加勢して、キヨテルは一層鬱陶しげに顔を歪める。
 もう何年も足を踏み入れていない小学校の中を見て回るのは確かに魅力的だが、これ以上彼を困らせるのも気が進まない。未だ言い合いを続けている友人を止めようとリンが口を開くと、キヨテルは諦めた様にはぁぁ、と長い溜息を吐き出した。

「仕方ないですね……六年の教室だけですよ。もし他の場所に出入りしたり備品を壊すなどしたら、速攻つまみ出します」
「きゃー、せんせー話が分かるぅ! それじゃ遠慮なくお邪魔しまーす」
「あっ、こら何窓から入ろうとしているんです! 入り口はあっち!!」
「正面玄関まで回ってられっかよ! オレもお邪魔しまーっす」
「久弥矢君まで……! まったく……」

 キヨテルの制止もむなしく、二人は脱いだ靴を片手にぶら下げてトコトコと廊下を目指す。残された四人は、互いに顔を見合わせて―――…。
 最初に笑ったのは誰だっただろうか。ふるりと空気が揺れたのを合図に、リンたちは開かれた窓へと順番に身体を滑り込ませた。

「あーもう! ちゃんと大人しくしているんですよ!?」

 背後で叫ぶキヨテルの声を聞きながら、全力で廊下を駆ける。堪え切れずに誰かがぷっと吹き出せば、伝染するのもあっという間で、狭い通路はたちまち笑いで満たされた。
 示し合わせたわけではないけれど、考えることは皆同じだったらしい。誰が一番先に教室へたどり着けるか――――。
 フライングをした二人に追いつこうと、揃って速度を上げる。その刹那、視界の端にちらりと映った「廊下を走ってはいけません」の標語に笑いは一層大きくなって。
 
――なんだか、本当にあの頃に戻ったみたい。
 
 悪戯をする小学生の様な気分に、リンの心は弾んだ。


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硝子瓶の中の泡沫 5

すおちゃん可愛いよすおちゃん!なあとがき

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