FC2ブログ

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

久しぶりに大人数でワイワイ騒いでます。本筋にはあまり影響のないお話ですが、書きたかったので。
実はこの後、もう一つシーンが残っているのですが、前回の更新からちょっと時間が空いてしまったので、とりあえず書けている部分まで公開しておきます。続きは新しく記事を立てるほどの長さでもないので、完成したらこっそりと追記しておきますね。
→9/28追記&若干の修正しました。


。。。

 緑と青に塗りつぶされた景色に鮮やかなほどに浮かび上がる赤銅色の鉄橋の上を、たった二両の小さな列車が走り抜けていった。
 中から眺めていた時はゆったりと感じたのに、こうやって見上げていると、列車が通り過ぎるのなんてあっという間だ。箱型の白い車体はガタゴトと鉄骨を鳴らして、樹のトンネルの奥へと消えていく。遠ざかってゆく音に寂しさを感じるのは、一週間もすれば自分があそこに乗っているのだという事を、思い出してしまうからだろうか。
 ぱしゃりと跳ねた水が足元にかかって、リンは視線を落とした。
 日差しの熱さにもかかわらず、川の水はほんのりと冷たい。昨日は夕立がなかった分、今日は流れが落ち着いているみたいで、静かに奏でられる流水音が心地よかった。
 サンダルのまま一歩踏み出すと、冷たさと共にぐっと押し込むような感覚が纏わりついてきて、リンは小さく悲鳴を漏らす。
 足首に当たった水が飛沫をあげる。肌を撫でる感触は柔らかいのに、ずっしりと重いものが乗っているみたいだ。リンと同じ様に川に足を入れたミキも、冷たさに一瞬首を竦めて「うっひゃあ、気持ちいい!」と声を上げた。


 リンたちが来ているのは、田んぼや民家が密集している地帯から少し離れた場所にある川辺だ。木々に囲まれたここは神社同様幼いころのリンの遊び場の一つで、歳の離れたミヤの兄を保護者として、みんなでよく泳ぎに来ていた。
 昔はそれなりに深く感じた浅瀬も、今入るとせいぜい膝の辺りまでしかない。奥の方はここよりも深く、溺れると危ないということで、中学に上がるまでは近付くことすら禁止されていたのだが、好奇心を押さえられなかったミヤは兄が目を離した隙にこっそりと侵入してしまい、後でものすごく怒られていたのだっけ。
 空の青を写し取った水面が光を反射してゆらゆらと揺らめく様子にリンが目を細めると、突然後ろの方が騒がしくなった。

「だから、何で僕まで脱がなきゃなんないんだよ!」
「そんなの決まってる、夏だからだ! さあレン、一緒にあの島を目指すぞ!!」
「島って何だよ、ただの岩じゃん。泳ぎたいなら勝手に一人で行ってくればいいだろ」
「一人じゃつまらないじゃないか!」
「知るかよ」
「だぁいじょうぶ、これだけ暑けりゃ濡れたパンツもすぐ乾くって! てか、お前ん家すぐそこなんだから、いつでも着替えられんじゃん。ついでにオレの分の着替えも貸してくれ!」
「勝手なこと言――――あ、ちょっとこら何す、おいミヤ!!」

 いきなり掴みかかって来たミヤにシャツを引っ張られたレンは、慌てて裾を押さえて抵抗を試みる。だがミヤの方もそれには負けず、今度は背後に回り込んで服を捲り上げようと飛びかかった。
 ぎゃあぎゃあとじゃれ合っているようにしか見えない二人の後方では、われ関せずといった感じで日陰に佇んでいるピコの姿。日に焼けた様子の無い彼が水浴びなどするわけがないから、ミヤも最初からレン一人にターゲットを絞っているらしい。レンからしてみたらいい迷惑だろう。

「……暑いのに元気だな、あの二人は」

 金色の長い髪をポニーテールにしたユリが呆れた様に呟いた直後、ひときわ大きな歓声が上がる。
 どうやら、攻防戦はミヤの勝利に終わったらしい。奪い取ったレンのシャツを得意気に掲げている彼の姿を、レンは悔しそうに睨み付けている。こうなったら付き合わないわけにはいかないだろう。
 心の片隅でちょっとだけ同情しながらユリの言葉に頷くと、隣で聞いていたミキは可愛らしい顔を不満気に歪め、むすっと口を尖らせた。

「いいよねぇ男子は簡単に服脱げて。ちくしょー、あたしも泳ぎたいぞ――!」
「水着取りに戻ればいいだろ」
「えぇぇ、あたしん家ここから遠いんだもん。それにあいつらと水浴びしたって楽しくないし。ユリが一緒に泳いでくれるんだったら考えるけど?」
「私は別に泳ぎたくなんかない。そもそも、二人して泳ぎに行ったらその間リンはどうするんだ」
「……リン、水着は」
「流石に持ってきてないかなぁ……」

 滞在中のどこかで川に立ち寄れたらいいとは思っていたが、泳ぐことまでは考えていなかった。苦笑交じりにリンが答えると、ミキは「だよねぇ~」とがっかりした様に水をひと蹴りする。そして憂さ晴らしでもするかのように「よーし、こうなったらとことんあいつらで遊んでやる!」と意気込むと、未だごちゃごちゃと言い争いをしているレン達の元へと向かっていった。
 使うかどうかはともかく、準備だけでもしておけばよかったかな。遠ざかっていく後姿にほんの少し後悔すると、リンは一旦川岸へと上がった。
 水を吸ったサンダルをぺちゃぺちゃと鳴らしながら日陰へと移動し、ピコに軽く手を振ると、平らな岩の上へと座る。軽く伸びをして息を吸い込むと、湿った土と苔の匂いが鼻を掠めて、生暖かい空気と一緒に肺の中に落ちていった。
 太陽をキラキラと反射させる川の前で楽しげにはしゃいでいる三人(正確には、楽しげな二人とそれに巻き込まれている一人だが)をぼんやりと眺めていると、無言で隣に腰を下ろしたユリが窺うように顔を覗き込む。

「――リン、レンと何かあったか?」
「えっ……な、何で」
「いや、何となく。今日のリン、あいつに対して挙動不審っていうか、あんま顔わせようとしないなぁって」
「……そんなことないよ、気のせいだって!」

 誤魔化すように笑いながらも、リンは内心汗をかく。
 ユリの言う事は間違っていない。だって、昨日あんな風に無理矢理話を遮ってしまったばかりなのだ。まともに顔を見られるわけがない。
 レンはあれから何も言ってこないし、今日もいつもと変わらない態度で接してくる。けれど、心の中でどう思っているかはわからない。
 怒っているかもしれない。困っているかもしれない。
 勿論、まったく気にしていない可能性もあるけれど、火をつけた打ち上げ花火が不発に終わって、その処理をどうするべきか迷っているような、もやもやと落ち着かない感覚が付きまとって離れてくれないのだ。
 周囲の温度が落ちたみたいに、すっと自分を見つめる強い眼差し――レンがすごく大事なことを話そうとしていたことはわかる。わかっている。
 けれど、その続きを聞いてしまうと何かが崩れてしまいそうな気がして、思わず口を挟んでしまった。酸味の強い果実の汁が落ちたみたいに、胸の奥がキリキリと痺れる。それは昔どこかで経験した味に似ていて、素直に受け入れることが出来なかった。
 レンはきっと一度止められただけじゃ諦めないから、昨日みたいに二人きりになったら、また続きを伝えようとしてくるだろう。聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ち――二つの相反する感情がない交ぜになって、リンを縛り付ける。
 ……逃げたって、意味なんかないのに。
 視線を逸らして、なるべく離れた場所を歩いて。そんな避けるような態度を取ったって、ただレンを困らせるだけなのに、静かに降り積もっていく不安をどうすればいいのか、リンにはわからなかった。




「あーあ、せっかく涼みに来たのに暑くなっちゃった」

 深いところまで落ちかけていたリンの思考を引き戻したのは、ほんの少し疲れの滲んだミキの声だ。
 片手をうちわの様にしてパタパタと顔を扇いでいたミキは、リンの反対隣りに座ると、はぁぁ、と大きく息を吐き出した。

「なんだ、もう飽きたのか?」
「んー、なんか二人で飛び込みやるんだってさ。突き落とすのは楽しそうだけど、落とされたらたまったもんじゃないし、もう勝手にどうぞって感じ」
「水着でもないのに飛び込みねぇ……レンも災難だな」
「ほんとほんと。飛び込んだ勢いでズボン脱げても知らないぞー」

 ケタケタと軽やかに笑うミキに引き攣った笑みを返すと、リンは川の方へと顔を向ける。
 水面に突き出る様にそびえ立つ大きな岩を登る二つの人影。リンの視線は、無意識にレンの姿を追っていた。
 服の上からでもしっかりしているように感じたが、こうやって見ると、遠目からでも筋肉が付いているのがよくわかる。自分のふよふよとした身体とは違って細くて骨ばっているのに、決して頼りないわけじゃなく、肩幅の広さやくっきりと浮き出た肩甲骨も、すっかり「大人の男の人」に近付いていっている様で――――

「……なぁに、ムラムラしちゃったの?」
「ひっ!?」

 いきなり耳元で囁かれて、喉の奥から悲鳴が飛び出す。
 反射的に振り向くと、形の良い唇の端をニヤリと持ち上げたミキが、何かを含んだように笑っていて――――その意図するところを察した瞬間、体中の血が一瞬で沸騰した。

「ちっ――違ッ!!」
「おやおやぁ、それにしては随分しっかりと見ておりましたよ、リンさん?」
「だから、そんなんじゃないって!」
「さーてどうだか」

 必死に否定をしようとしても、ミキは聞く耳を持ってくれない。
 確かに向こうの学校では体育の授業は男女別で、こうやって異性の身体つきを見る機会なんて無かったから、ちょっとだけ新鮮というか、物珍しい様な気分になっていたけれど……。
 熱くなる頬に心臓がどくどくと脈打つ。追い打ちをかける様にぶり返してきた感覚に肌がじゅわりと痺れて、追い払うようにリンは強く首を振った。
 とりあえず心を落ち着かせなければ。不自然に見えない程度に深呼吸を一度だけして、リンはゆっくりと目を開ける。
 岩場の方を窺い見ると、二人は既に頂上に到達していて、こちらに気付いたミヤが両腕を大きく振り回していた。端の方で下を覗き込んでいたレンも、騒がしいミヤの様子に顔をあげる。瞬間、重なった視線に、リンの心臓はドキリと跳ねた。
 流石に、これだけ離れていれば、先ほどの会話がレンに聞こえている事なんであるはずがない。けれど、ミキの言う通り無意識に凝視してしまったのも事実だ。もぞもぞと這い上がってくる恥ずかしさと居心地の悪さにリンが視線を逸らそうとすると……。

「あれ、落とされるね」

 さっきまで無言だったピコが、熱のこもっていない声で呟く。

「――ああ、ほんとだ」
「笑っちゃだめだよ? 気付かれちゃう」

 同じく無感情に続けたユリと、自分で言っておきながら込み上げる笑いを抑え切れていないミキの様子に首をかしげて三人の視線の先を辿ると、こちらを見下ろすレンの後方からゆっくりと影が近づいてくる所だった。
 そろりと伸ばされた腕が背中の手前で止まり、少しだけ後ろに引かれる。そして……

「……あ」

 トン、という軽い衝撃と共に突き飛ばされた身体は、空中で一瞬だけ停止すると、そのまま重力に引かれて一直線に落下した。
 バシャン―――…
 水を叩く大きな音が響き渡り、空に向かって衝き上がった真っ白な柱は、すぐに形を失って崩れ落ちる。
 そして波打つ水面が落ち着いたところでようやく、黄色い頭が浮かび上がった。

「――――ぷはっ……何、するんだよいきなり……!」
「あっはははは! 悪い、手が滑った!」
「嘘つけ、わざとだろ! っくしょー……」

 お腹を抱えて笑うミヤの姿を悔しそうに見上げるレン。そんな二人の様子に、リンの周りでも弾けた様に笑いが起こる。

「全く、ミヤはいつまで経ってもやることが小学生レベルだよね。レンには悪いけど、傍観決め込んどいてホントよかったよ」
「くひひっ、良い落ちっぷりだったよねぇ~。正面から『ドボーン』!!」
「……ミキ、笑いすぎだ」
「ユリだって笑ってんじゃん、口元抑えてるだけで! くくっ……ほらリン、助けてきなよ可愛そうだから」
「――えっ、わたし?」
「行ってあげてよ、鏡音さん。俺たちだと多分、顔見たら笑う」
「…………」

 遠慮のないミキは勿論だが、小さく肩を震わせているピコやユリもなかなか酷いのではないだろうか。
 振り向いてみれば、レンは岸を目指して泳いでいる所だった。ぷかぷかと浮き沈みする頭は、ずぶ濡れだという点を差し引いてもどこかどんよりと落ち込んでいる様で――――確かに、ちょっと可愛そうかもしれない。
 仕方がないなぁと呟くと、リンは立ち上がる。本当はまだ少し気まずいし、ミキが変な事を言ったせいで余計顔が合わせにくいのだけど、災難続きのレンを見ていたらどうでもよくなってしまった。
 足場の悪い岩上を転ばない様にゆっくりと進んで、未だ身体を水に沈めたままぐったりと息を吐いているレンの前に屈むと、そっと顔を覗き込む。

「えーと……大丈夫?」
「――な、ワケないだろ……」
「だよね……」

 想像通りの返答。思わず苦笑してしまうと、レンはむっとした様に視線を逸らした。
 腕の間にうずめた顔は心なしか赤い。ただ単に機嫌を損ねているだけかと思ったけれど……ひょっとして、恥ずかしがっている?
 そのまま困った様な笑いたいような曖昧な表情をしていると、レンはもごもごと不満らしき言葉を呟いて(声が小さかったから、何と言ったのかは聞き取れなかった)、わざとらしく息を大きく吐き出した。
 勢いをつけて岩に乗り上がると、髪や身体、ついでに水分を吸ってずっしりと重くなったズボンからたっぷりと水がしたたり落ちて、灰色の岩を黒く染める。

「手、貸すよ?」
「……サンキュ」

 せめて立ち上がるのだけでも手伝おうとリンが手を広げると、レンは暫くの間手のひらをじっと眺めて、素直に手を乗せた。断られると思ったからちょっと意外だ。
 川の水に浸かっていた手はひんやりと気持ちいい。そのまま握り込んで、ぐっと引き上げる――――つもりだったのに、

「――おわっ!?」
「きゃっ……」

 何故か、自分の方が強く腕を引かれた。
 世界がぐらりと揺れる。
 岩が斜面になっているのだとか、立ち上がった勢いでレンが足を滑らせたのだとか、そういったことが一瞬で頭の中を駆け巡って、どこかに消えていく。
 落ちる――――! そう思った時にはもう目の前に水が迫っていて、反射的に目を閉じた瞬間。
 耳元で水が弾けた。
 しゅわしゅわと頬をくすぐる感触にうっすらと目を開くと、透明な世界に浮かぶ無数の白い泡。
 厚い膜で隔てた様な場所でこぽこぽと音を鳴らしながら、二人分の衝撃で出来た気泡は、あっという間に水面へと昇っていく。

―――…ああ、まるで……。

 息を止めている事も忘れて自分を包み込む光景をぼんやり眺めていると、かろうじて背中に回されていた腕に力が入って、身体がぐんと上に押し上げられた。

「――っはぁ!」

 浮上すると同時に肺の中に入り込んできた新鮮な空気に、リンは荒い呼吸を繰り返す。
 降り注ぐ日差しと、耳を満たす沢山の音。身体は一気に現実へと引き戻されたのに、頭の中は夢でも見ているみたいに鈍く痺れていた。

「ゲホッケホ……ごめ、なんか巻き添えにした……」
「あ……うん、だいじょう、ぶ」
「……リン?」

 ぼんやりとしたまま答えるリンに、レンは訝しげな視線を送る。
 今リンの思考を占めているのは水の中の光景だ。透き通った青、小さな気泡――――それは、あの時見たラムネ瓶の内側に似ている。
 まるで、瓶に落とされた硝子玉にでもなったみたい……。
 苔臭い川の水に、微かに甘い香りが混ざった様な気がした。

スポンサーサイト
web拍手 by FC2

おしらせ

久しぶりに…

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿





trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。