FC2ブログ

バレンタインに、間に合いませんでした。
「60分一本勝負」字書きバージョンにセルフチャレンジして、途中で終わってしまったものです。一時間で半分でしたが、残りの半分にその2.5倍くらいの時間かけてるあたりどうしようもないな!\(^o^)/
執筆スピード上げたいです……(ずっと言ってる)

気になる所は後で直します。


赤薔薇の微笑

 テーブルの上に散乱したチョコレート菓子に、細い指が伸びる。
 ハート形の小さなアルミカップを摘み上げたそれは、ギラリと照明を反射するアルミ部分を綺麗に剥がし、小さく開けられた口の中に中身を放り込んだ。
 チョコレートを噛み砕く固い音。舌の上で転がすような気配。それから、こくんと鳴った喉元に、彼女が満足げに微笑む。その一部始終を、オレは彼女の正面から眺めていた。

「……あのさぁ」
「ん?」
「それ、一応オレが貰ったものなんだけど」
「知ってるわよ、そんな事」

 それじゃあ何で当たり前の様に貪り食っているんですか。
 喉元までせり上がってきた問いは、その後返ってくるであろう答えがいとも簡単に予測できてしまったことにより霧散する。彼女はきっとこう言うはずだ。「だって、こんなに沢山いらないでしょう?」


 義理、本命、友チョコ――。相手によって使い分けられる名称数あれど、このイベントに乗じて、学校ではチョコレートの受け渡しがあちこちで行われていた。
 貰えた数に一喜一憂する男子がいる中、オレが受け取ったチョコレート菓子は30弱となかなかの数。
 差出人もわからない、ただ渡せれば十分だといった感じのプレゼントはある意味気が楽ではあるけれど、これだけ沢山集まってしまうと確かに食べきるのは大変だ。甘いものは嫌いではないけれど、一人で大量に食べるようなもんでもないし、捨てる事になってしまう位なら手伝ってもらえた方が心が軽い。
 ……とはいえ、どこの誰とも知れぬ女の子が一生懸命作ったであろう菓子を、受け取ったオレではなくその幼馴染がぺろりと平らげていくこの状況は、如何なものなのだろうか。本人が知ったら多分泣くだろう。

「美味しい?」
「ふつう」
「……それって、あまり美味しくないってこと?」
「だから、ふつう。普通にチョコレートの味」
「あ、そ……」

 せめて味の感想でも聞ければ菓子もその子も報われるだろうと思ったけれど、返ってきたのは飾り気のない言葉のみ。ちくしょう、訊いたオレが馬鹿だった……!
 そんな俺の心境なんか露ほども気にせず、彼女は次なる獲物を選出するべく菓子の山に手を伸ばした。
 星の柄がプリントされた透明な袋に入れられた星形のクッキーを摘まむと、またもやぽいっと口の中に放り込む。クッキーを咀嚼する音と、小さく上下する頬。彼女がこの部屋に乗り込んできてから既に5つの菓子が消費されている。

「――そういえば、リンはオレにチョコレートくれないの?」

 もぐもぐと口を動かしている彼女に期待半分、諦め半分で訪ねてみると、案の定キョトンとした顔が向けられた。

「……何で私がレンにチョコレートをあげなくちゃいけないの?」
「いや、だって、バレンタインだし」
「バレンタインだと、チョコレートを渡さないといけないの?」
「そうじゃないけど……ほら、幼馴染なんだからさ。付き合い長いんだし、義理くらい用意してくれたって……」
「なにそれ、意味が解らない」

 はぐらかしたわけじゃなく、本当に意味が解らないといった顔で眉をひそめるリン。その姿に、胸の奥が焦げるみたいにチリチリと痺れた。
 ……正直、はぐらかされた方がずっとマシだったかもしれない。リンにとって自分がただの幼馴染でしかないことは分かりきっているけれど、こうもはっきりと態度に表わされてしまうと、流石に堪えるものがある。
 例え幼馴染のよしみだったとしても、どこの誰からかもわからない大量のチョコより、彼女からもらえる義理チョコの方がよっぽど嬉しかった。小さい頃――それこそ、小学生の低学年くらいの頃はオレもリンからチョコレートを貰っていたのだけど、ここ数年はからっきしだ。寧ろ、こうやってオレが貰ったチョコをリンがつまみ食いに来る始末。
 それでも、「ひょっとしたらこっそり用意してくれているんじゃないか」という期待は捨てきれなかった。
 自分から催促するなんてかっこ悪いから、彼女が甘ったるい菓子を消費し終わるのを見届けて、その後に続けられる言葉を黙って待っていた。「折角だから用意してあげたわよ」と偉そうに言いながら、片手を差し出してくれるんじゃないかとソワソワしながら――。
 けれど、一通り食べ終わって満足したリンがオレにかける言葉は「ごちそうさま」の一言だけで、当然、彼女の手からラッピングされた箱や袋が出てくるなんてことも無かった。
 そして今年も、期待は泡となって消える運命だったらしい。
 それなりにたくさん入っていたクッキーをきれいに平らげ、溶けて指の腹についてしまったチョコレートをぺろりと舐め取っているリンを見ながら、オレはなるべく気づかれない様に小さくため息を吐く。
 付き合いが長すぎて、今更好きだのなんだの言えるわけがない。彼女に自分と同じ気持ちを求めることも、八割方諦めている。
 ……だから、せめて義理チョコだけでも。そう思っていたのに、彼女にとってオレはチョコを渡す価値すらないらしい。
 他人から押し付けられた好意の塊を見ても無反応な様子にむしゃくしゃしてしまうあたり、諦めきれない気持ちもまだ十分残っているのだろうけど、告白したところで「私はそんなつもりないから」とバッサリぶった切られることくらい目に見えている。潔く砕け散れるほど、オレのメンタルは頑丈じゃない。
 幼馴染ってほんと面倒臭いよなぁ。そんな風にふて腐れた考えが浮かんでしまったところ、オレの心境を見透かしたようにリンが静かに微笑んだ。

「――ああ、でも、バレンタインのプレゼントはちゃんと用意したわよ」
「え……!?」

 予想外の言葉にガタリと身を乗り出す。ちょっとまて、プレゼントってどういうことだよ!?
 期待でむくむく膨れた胸を弾ませて、トートバッグを漁るリンの様子を見守る。そして「どうぞ」と差し出された彼女の右手に握られていたのは――――。

「……花?」
「薔薇の花。綺麗でしょ」

 透明なセロファン紙に包まれた一輪の薔薇。この季節としては珍しいし若干小ぶりのように見えるけれど、彼女の言う通り確かにきれいだ。とはいえ……。
 赤く色付いた花を尚も差し出しながら、リンはニコニコと笑うばかり。その瞳に浮かぶのは、悪戯が成功して喜ぶような得意気な色で。

「どう、嬉しい?」
「……男が花なんか貰って何で嬉しいんだよ」
「嬉しくないの?」
「当たり前だ!」

 強くなってしまった語気にもリンは全く動じない。何だよこれ、完全に遊ばれてんじゃん……。
 プレゼントと聞いて浮かれてしまった自分が馬鹿みたいだ。やっぱり、リンにとってオレは、からかいやすいただの幼馴染でしかないのだろうか。
 もはや隠す事すらも億劫になってしまい、リンの前だろうと構わず盛大に息を吐き出した。
 すると、リンは項垂れたオレの頭をしばらくじっと見降ろし――そのままオレの手元に例の薔薇の花を置いた。

「そう……じゃあ、それ私に頂戴」
「は?」
「レンにあげたんだから、その薔薇はもうレンのもの。レンが要らないのなら私に頂戴」
「は、はぁ…………」

 リンは相変わらずにこにこと笑いながら、空っぽになった右手の平をこちらに向ける。なんだこれ、意味が解らない。
 元々リンが持ってきたものなんだから、そんなまどろっこしい事をしなくとも勝手に取っていけばいいのに。そう思わないでもないけれど、リンはあくまでオレの手から受け取りたいらしい。

「……こういうのはリンの方が似合うだろ。リンにやるよ」
「ありがとう」

 半ばやけくその様に掴んでずい、と差し出すと、リンは大事そうに受け取って両手で包み、満足げに笑った。……一体これは何の儀式だったんだろう。
 理由を訊こうと口を開きかけた所でリンが立ち上がる。

「さて。暗くなってきたし、そろそろ帰るわ。チョコレートご馳走様。あと、これもありがとう」
「……どういたしまして」

 扉の方へと去っていく後姿を見送りながら、オレの心の中には釈然としない思いだけが渦巻いていた。結局リンは何がしたかったんだ? オレに、何をしてほしかったんだ……?
 戸惑うオレを残して部屋から出ていこうとするリンが、ドアの前でふいに立ち止まった。

「――ねぇ。レン、知ってる? 海外では、バレンタインは男の人から女の人へ贈り物をする日なのよ」
「……あぁ、そういや何か聞いたことあるな。チョコ贈るのも日本だけなんだっけ?」
「そう。海外では、男性が意中の女性に薔薇の花を贈るんですって」
「ふぅん…………え?」
「ハッピーバレンタイン、レン」

 清々しいほどの笑顔が、扉の向こうに消えた。

 階段を降りる規則的な振動音を聞きながら、彼女の言葉を反復する。
 要するに、リンは海外式のバレンタインを実演したかったわけで。海外では男が意中の女性に薔薇をプレゼントするらしい。それをオレの手でやらせたってことは、つまり――。

「――――――――っ!?」

 閉じられたばかりの扉をこじ開けて、想い人の背中を追う。
 彼女に先ほどの行動の真意を問うために―――…そして、自分の気持ちを伝えるために。
 オレの呼び声に振り向いたリンの顔には、穏やかな微笑みが浮かんでいた。



◇◆◇
海外式(英国式?)のバレンタインでお話を書きたかった。
乙女で純情なリンちゃんが書けないので、懲りずに男前イケリンさん推しです。

スポンサーサイト
web拍手 by FC2

雪ですね

新年一発目

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿





trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。