FC2ブログ

身体が埋まるほどの雪なんて、北国でもない限り見られないと思っていました……(白目)
昨日から今朝にかけての大雪、大変でしたね。そんなに雪が降らない地域の人間なので、初めて見る光景に夜中からビックリ仰天でした。車!車うまってる!!(((゚Д゚;)))
各地被害が出ている様ですが、無事に溶けてくれることを祈ります。……え、近々また雪の予報、だと……!?

そんなこんなで(?)もじゅみね青黒藍蘇シリーズ冬編、雪のお話です。今回の主役は蘇芳ちゃん。いつもは天真爛漫、無邪気な様子ですが、今回は……?



白雪と子守唄

 ぴったりと閉じられた障子の向こう側では、まるで砂時計の砂みたいにさらさらとこぼれ落ちてくる白い粒が、音もなく降り積もっているのだろう。
 ぼうっとする頭を何とか動かして、枕元に膝をついてタオルを水に浸しているそのひとにそっと話しかける。

「……てっちゃん」
「ん?」
「おそと、雪だね」
「……そうだね」
「……てっちゃん」
「何?」
「…………ゆきだるま」
「蘇芳」

 紫水晶の瞳が、私の顔をぎろりと睨みつけた。




 ウイルス性のオーバーヒート。それが、私に下された診断結果だった。
 ウイルスと言ってもプログラムに支障をきたすようなものではないから、二・三日大人しくしてれば自然に除去されるらしい。人間でいうと風邪みたいなものなんだとか。
 身体がぽかぽかしてなんとなく頭がぼーっとするけど、それ以外に不調なところは無いから、ちょっとだけお外で雪を触るくらいいいんじゃないかなぁ。そう思うのだけど、頭のかたいてっちゃんは絶対に許してくれない。

「雪が降って嬉しいのは分かるけど、まだ本調子じゃないのだから。せっかく熱が下がって来たのにぶり返したらどうするんだ?」

 ……ほらね、やっぱり。
 予想通りの答えに、私は静かに肩を落とした。

 てっちゃんは厳しい。私だけじゃなくて割とみんなにだけど、決まり事とか約束事なんかが絡んでくると特にうるさくなる。
 私がウイルスをもらって来たのはお仕事の帰りに勝手に寄り道をしたからで、しかも「危ないからあまり近寄っちゃだめ」って言われていたインターネットポートに遊びに行ったのが原因だから、悪いのは間違いなく約束を守らなかった私なのだけど。
 でも、ちょっとくらいは聞く耳を持ってくれてもいいと思うの。ちゃんと謝ったし、反省もしているんだから。

「……心配いらないって言われたもん」
「そういう問題じゃなくて。安静期間はあと一日残っているのだから、せめて今日一杯は寝ていないと」
「……けちんぼ」
「蘇芳、我儘言わない」

 はぁ、と溜息を吐いて、濡れタオルでぺしゃりと私の顔を覆う。しばらくお口チャックしてなさい、ってことなんだろうな。……けちんぼ。
 てっちゃんは他の人の前ではいつも敬語だけど、私と二人きりの時はこうやって普通の話し方になる。元々こういう話し方なのだけど、私以外の人には意図的に敬語を使う様にしているのだ。
 この事はたぶん誰も知らないし、二人だけの秘密って感じでちょっと嬉しく思うことが大半なのだけど、でも、怒っている時は別。敬語を使っている時に比べてトゲトゲした感じだし、声の温度も冷たい。まるで、私にだけすごく厳しくしているみたい。
 前にそれを指摘したら「気のせいだ」と全く取り合ってくれなかったけど、絶対気のせいなんかじゃないもん!

「ああ、そういえば、さっきスクールジャージ君から通信がきてたよ。蘇芳が体調を崩したのは彼との仕事の後だったし、色々心配していたらしい。お見舞いは遠慮しておいたけど、あとで蘇芳からもお礼を言っておくんだよ」
「……断らなくてもよかったのに」
「感染する可能性がゼロではない以上、お客さんを家に上げるわけにはいかないよ。それに、彼にはわるいけど、蘇芳の前で騒がしくされたら困る」
「てっちゃんにはうつってないじゃん!」
「……僕はメンテナンスを受けたから。いいから蘇芳はしっかり寝ている事」
「むぅ……」

 せっかく気分転換にスクジャ君とお話しできると思ったのに、てっちゃんのおせっかい!
 すっかり機嫌を損ねてぷぅ、とほっぺを膨らませていると、てっちゃんが困ったように笑う。そして障子硝子の前に腰をおろすと、下の部分を押し上げて、お庭の様子が見えるようにしてくれた。
 白と茶色だけのせかい。色とりどりのお花が並んでいた花壇はすっかり雪に埋まってしまって、はだかんぼの落葉樹はなんだかとっても寒そう。このお庭には常緑樹もあるけど、きっと綿菓子みたいな雪をたくさんかぶっているんだろうなぁ。緑と白のコントラストも綺麗に決まってる。
 そういえば、秋の終わりにはお庭で焼き芋をしたんだっけ。てっちゃんと青ちゃんが落ち葉を集めて、私と黒ちゃんがお芋の準備をして――。
 じんわりあたたかい炎でほっくほくに焼けたお芋は甘くておいしくて、あっという間に食べ終わってしまった。おかわりしたらお腹がいっぱいになっちゃって、夕ご飯が入らなかったのも良く覚えている(もちろん、「ほどほどにしないから」っててっちゃんに怒られたけど)。
 陽炎ちゃんは結局来てくれなかったけど、闇ちゃんが(ちょっと嫌そうだったけど)遊びに来てくれたり、余ったお芋を和風エリアのお仲間さんたちの所にお裾分けしてきたりで、とても賑やかな一日になった。あの時は楽しかったなぁ……。

「……ゆきがっせん」
「治ったらね」
「むー…………」

 あー、もう、つまんない!
 本当は今日黒ちゃんと青ちゃんが遊びに来る予定なのだけど、きっとスクジャ君みたいにてっちゃんが断ってしまっているだろう。
 大人しくしてなさいっていうのはわかるけど、ひとりで寝てたって退屈だし、寂しいし、てっちゃんはわからずやだし、さいあくだぁ……。
 自分の不注意を棚に上げてひたすらぶすくれている私を見て、てっちゃんがやれやれといった感じで眉を下げる。
 ――と、その時。

「――蘇芳、お見舞いに来たわよ」

 私とよく似た、けれど私よりも落ち着いた声が耳に届いて、勢いのままがばりと体を起こした。

「く、黒ちゃん!?」
「どうも。……あ、思ったより元気そうじゃない」
「起きて大丈夫なのか?」
「青ちゃんまで……!」

 ……びっくりした。
 約束はぜったいに中止だろうけど、そんなの無視して会いに来てくれないかなぁ、なんて考えていたら、黒ちゃんと青ちゃんがいた。玄関のチャイムが鳴らなかったから、廊下の転送装置で直接家に入って来たのかな?
 二人の登場は流石のてっちゃんも予想外だったみたいで、我に返ると慌てた様に「お二方とも、見舞いは不要だって伝えたじゃないですか! 何ちゃっかり来てるんです!?」と口を挟んでくる。
 口調はすっかり猫かぶりモード(てっちゃんが他の人に敬語を使う所を、私はこっそりそう呼んでいる)だけど、切り替えはいつもより少しだけ鈍いかもしれない。ていうか、やっぱり断ってたんだ……。
 突然現れた大切な友人さんは、私の枕元で「よいしょ」と腰を下ろすと、からかうように笑った。

「それにしても、蘇芳が病気だなんてね。あんたそういうのとは無縁そうだし、珍しいこともあるものね」
「ひ、ひどいよ!?」
「冗談だって。……でもまぁ、それなりに心配はしたし。鉄はああ言ってるけど、気になってギターの練習に身が入らなかったから、いっそ様子を見に行こうと思ったのよ」
「熱があるときいていたが……その調子だと、もう心配なさそうだな」
「う……うん、殆どいつもと変わらない位まで下がったし、もうへっちゃらだよ!」
「『へっちゃら』じゃないでしょう! 昨日まで碌に起き上がれなかったというのに……。黒さんと青さんも、蘇芳はまだ病人なんですからそっとしておいてくださいよ」
「むぅー……もうだいじょうぶだもん」

 折角遊びに来てくれたのに、そんな風に言ったら二人とも帰っちゃうじゃない!
 そうはさせないと唇を尖らせて抗議をしようとしたけど、てっちゃんには全く効果なし。もー、お話するくらいいいじゃん!
 私たちのやり取りに黒ちゃんは少しだけ苦笑して、軽く肩を竦めた。

「わかってるわよ。でも、折角お見舞い持ってきたのだから、もう少しだけお邪魔してるわ。……っても、慌ててコンビニで買ったものだけど」
「……蘇芳、食欲はあるか?」

 黒ちゃんに促されて、青ちゃんが片手にぶら下げていた白いビニール袋を差し出す。慌てて、ってことは、途中で思い立って買いに行ってくれたのかな? えへへ、そうだったらちょっと嬉しい。なに持ってきてくれたんだろう……?

「――肉まん……と、アイス?」

 袋はよく見たら二つあった。中を覗き込むと、片方にはほかほかの肉まんがふたつ、もう片方には大福を模したバニラアイス(二個入り)がひとつ。……デザートのつもり、かなぁ?
 答えは、黒ちゃんの口から明かされた。

「風邪って聞いてたから暖かいものがいいのかなーって思ったのだけど、よくよく考えてみたらオーバーヒートなんだし、寧ろ冷やした方がいいんじゃないか……ってね。面倒臭いから両方買ってきちゃった」
「二つずつあるし、鉄と分けて食べると丁度いいだろう。……食べられそうか?」
「……たべる!」

 昨日一昨日と身体がだるくて水分以外はほとんど口に出来なかったから、お腹はぺこぺこだ。空っぽの胃袋がきゅるきゅると音を立てる前に、私はほんのり湯気を立てるふかふかの皮にかぶりついた。


***


「……しかし、よく降るわねぇ」

 アイスまでしっかり食べ終わってふぅ、と一息ついていると、黒ちゃんが硝子越しに外を眺めながらぽつりとつぶやいた。

「断られる前に無理矢理上がり込んでやろうと思って久しぶりに中から入らせてもらったけど、そうして正解だった。あんなところ歩いてこれないわよ」
「冬ですからねぇ。最近ちらほら降るようになったのですが、今日はちょっと多いみたいです」

 暖かい緑茶の入った湯呑を置きながら、てっちゃんも止まない雪を見てふふ、と笑う。

「大分積もってきましたし、この辺りで一旦雪かきでもしましょうか。……勿論手伝ってくださいますよね、青さん?」
「…………拒否権は」
「何か言いましたか?」
「……」

 てっちゃんの笑顔に青ちゃんはぐぬぬ、と黙り込んでしまう。ずるいなぁ、絶対聞こえていたはずなのに。
 でも、そんなやり取りは青ちゃんの方も慣れっこみたいで、諦めた様に大きなため息を吐くと、「わかった」と腰を上げる。雪かきは力仕事だから男の人に手伝ってもらえると私も助かるのだけど、何だか悪いなぁ……。
 大きなスコップを二つ取り出したてっちゃんが青ちゃんを連れてお庭に出だのを見届けて、私はそっと黒ちゃんに囁いた。

「ごめんね、うちのてっちゃんいつもゴーインで。青ちゃん迷惑がっていない?」

 青ちゃんはいいひとだから、頼まれたら絶対に断らない。でも、ひょっとしたら私たちの前では文句を言わないだけで、実はすごく嫌なことまでやらせてしまっているかもしれない。
 そんな風に心配して黒ちゃんにお伺いを立ててみたのだけど、黒ちゃんは瑠璃色の綺麗な目をぱちくりとさせて、ぷぷ、と吹き出すだけだ。

「大丈夫よ、あんな奴、好きなだけ使ってやりゃいいって」
「で、でも」
「アイツが本気で困っている様だったら、流石のあたしも助け舟を出すわよ。見たところ、あれこれ構われて満更でもなさそうだし、気にしなくていいんじゃないの」
「そうかなぁ……?」
「そうそう」

 それは、相方だからそのさじ加減が分かるってこと?
 黒ちゃんはすごくさっぱりした性格だから、青ちゃんに対してもあまり干渉しないように見える。それは、お互いがお互いの事を一人前だと認めている様で……

「いいなぁ……」
「ん? どうしたのよ、急に」
「黒ちゃんも青ちゃんも、自分の事は自分で出来るって感じで、すごく大人だよね。私なんかいっつもてっちゃんに『あれはダメ、これはこうしなさい』って口出しされるんだよ?」

 一人でお仕事に行くときも、一緒にお庭のお手入れをする時も、てっちゃんは必ず何かしら注文を付けてくる。
 それが的確なアドバイスだったらばっちこいなのだけど、私の行動を制限するようなものだとちょっとがっかり。小さな子供じゃないんだし、良い事悪いことくらい自分で考えて行動できるよ! ……そりゃ、好奇心が抑えられない事くらい、たまにはあるかもしれないけど。

「蘇芳はちょっと危なっかしいから。ネットに飛び出してウイルスくっつけて来る位なんだもの、色々心配なんでしょ」
「うっ……で、でもね! てっちゃんは、私に対して厳しすぎると思うの。ごめんなさいってちゃんと謝ったのに、いつまで経っても怒りっぱなしで、私のお願いは全部却下なんだよ。ひどいよね!?」
「あー……鉄は、確かにちょっと過保護すぎるかもね」
「でしょー!」
「ま、あんたがもう少し落ち着きを持ってたら、鉄の対応も変わってくるのだろうけど。でも落ち着いた蘇芳なんて想像できないわね」
「く、黒ちゃんひどい!」

 あはは、と軽やかに笑われて、私は溶ける様にぽふんとおふとんに顔をうずめた。うーん、そんな子供っぽいのかなぁ、私……。

「とりあえず、鉄の言う通り、今日一日は静かに寝てなさいよ。まだ本調子じゃないんでしょ」
「うー、へいきだもん」
「そういう所が心配の元なんだって。元気になったら雪遊びだろうと何だろうと付き合うわよ。退屈だろうけど我慢してなさいって」

 そんな風に言われてしまったら、これ以上反論は出来ない。渋々お布団に潜ると、黒ちゃんは枕に埋まった私の頭をぽんと叩いた。
 外からは、てっちゃんと青ちゃんの話し声とスコップを突き立てる音が途切れ途切れに聞こえてくる。雪はまだ止んでいないからきっとすぐに埋まってしまうのだろうけど、白銀の結晶を掬い上げる軽やかなリズムは耳に心地よくて、あぁ、すごく好きだなぁ。

「……ねぇ、黒ちゃん」
「ん?」
「あしたは、みんなで雪合戦しようね」
「いいわよ。一緒に男どもをぶちのめしましょう」
「えへへ、黒ちゃん頼もしい」

 約束をしたらほっとしたのか急に眠気がやって、瞼がじりじりと重くなってくる。ああ、せっかく黒ちゃんたちが来てるのだから、もう少し、お話、したいのに…………。
 必死の抵抗はあっけなく崩れて、私の瞼はとうとうぴったりとくっついてしまった。
 暗くなった視界の向こうで黒ちゃんが動いて、はだけてしまった私のふとんをそっとかけ直してくれる。ありがとう、と声を出そうとしたけれど、眠気はもう毒の様に全身に回ってしまって――――
 さく、しゃり。子守唄みたいな雪の音とほんのり暖かいおふとんに包まれて、私は、静かに眠りへと落ちていった。

スポンサーサイト
web拍手 by FC2

一月分

バレンタイン(遅刻)

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿





trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。