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短いお話第二弾。ぷらいべったーには載せたのですが、こちらでは公開していなかったので、場繋ぎに。
以前書いたフリリク企画のお題「江戸時代パロで敬語の鏡音」の没ネタを、形を変えて再利用してみました。お団子屋のリンちゃんかわいいよね!(^///^)
相変わらず時代物は手探りなのでいろいろ間違っているかもしれません。適当に流してやってください;




道草語り 

 久方ぶりに足を運ぶ城下町は、今日もがやがやと賑わっている。
 蕎麦屋の前では女が道ゆく人に声を掛け、子供たちが遊ぶ横を飛脚が慌ただしげに通り過ぎていく。
 建物の影で立ち止まり、借りてきたばかりの本を入れた風呂敷をもち直すと、私は静かに息を吐き出した。
 職業柄家の中に籠ることが多いせいか、こうやって外に出ると、溢れんばかりの活気に圧倒されてしまう。
 身の回りの世話をしに顔を出す叔母には会うたびに「少しは身体を動かすべきだ」と叱られ、それを持ち前の笑顔で受け流すというのが常であったが……いい加減、素直に耳を貸した方がいいかもしれない。
 まずは外に出る回数を増やそう、などと先の長そうなことを考えながら、自宅を目指して再び足を進めようとしたところ。

「――さん、蓮さん!」

 一軒の茶屋の前で、軽やかに弾む声に呼び止められた。
 枯草に萌葱の模様が入った着物を着たその少女は、客に団子を出した後なのか、盆を胸の辺りに抱きかかえながらこちらに駆け寄ってくる。

「やっぱり蓮さんだ。こんにちは、お久しぶりですね」
「……こんにちは、鈴さん」

 挨拶に応えると、少女――鈴さんは年相応の愛らしさを滲ませて、嬉しそうに笑った。

「蓮さんを街中で見かけるなんて珍しい。今日は用事でいらしていたんですか?」
「ええ、必要な資料を借りに。鈴さんは今日もお店の手伝いですか。まだ若いのに偉いですね」
「ねえさまのお団子は町一番ですもの! 毎日忙しいのに、それを放って遊んでばかりもいられません」
「……そうですね。瑞樹殿のお団子は甘さが丁度良いので、私も気に入ってます」

 本心からの感想を述べると、鈴さんは顔をぱぁ、と輝かせ、まるで自分の事の様に喜びを浮かべた。
 素直で明るい彼女の振る舞いは、店を訪れる者の間でもたいそう評判がいいと聞く。なるほど、この忙しない町中で彼女の笑顔と美味しい菓子が楽しめるとあれば、人が集まるのも納得がいく。
 私がこの少女と出会ったのは、確か一年ほど前――仕事に行き詰っていた頃だ。
 物書きなんて大して金にならない職業は早々に切り上げるべきだと、親しくしている友人にすら心配されていた私を、彼女はこの向日葵の様な笑顔で励ましてくれた。
 彼女からしてみたら、数多いる客の一人が零した弱音を店の人間として親身になって聞いただけなのかもしれない。しかし、精神的にもひどく落ち込んでいた私は――陳腐な言い方かもしれないが、確かに救われたのだ。彼女の言葉に。この笑顔に。
 あれ以来、町中に用事があるときはよくこの店に立ち寄り、彼女との他愛のない話を楽しんでいたのだが……そういえば、ここ最近はすっかり遠のいてしまっていた。
 呼び止めてもらえたことへの嬉しさと、彼女の様な娘が私を気に留めてくれる事への戸惑いが混ざり合い、さてどう対応したものかと思いを巡らせていると、鈴さんが両手をぱんと鳴らした。

「蓮さん! 折角だし、一服していきませんか? そろそろ人も落ち着く頃ですし、ゆっくりお話を聞かせてください」
「いや、そうしたいのは山々ですが……参考にしたい本も手に入れた事ですし、今日中に書けるところは書いてしまいたいと」
「今日のお団子、私も仕込みを手伝ったんですよ! まだねえさまの様にうまくは出来ませんけど、お客さんも『美味しい』って言ってくださってるんです。だから、蓮さんも……!」

 早く帰って仕事に取り掛かりたい、と言うのは嘘ではない。
 けれど、期待を込めたまなざしで見つめられてしまえば、断ることなどできるはずもなく―――。

「……負けました。鈴さんが作ったとなれば戴かないわけにはいきませんね。ひとつ、お願いします」

 降参するように肩を竦めると、彼女は今にも飛び上がりそうな程に声を弾ませ、頬を赤く染めた。

「待っててください、すぐに用意しますから! あ、お抹茶もお出ししますか?」
「そうですね、戴ましょう。……それにしても、随分と客引きの腕を上げましたね。お店が繁盛しているのも納得です」
「えへへ、これでも山葉屋の看板娘ですから!」
「鈴ちゃーん! お団子のおかわりくれ~!」
「はぁいただいま! ……蓮さん、お話はまた後で」
「ええ、また後で」

 ひらひらと手を振りながら駆け戻って行く姿を見送りながら、私は苦笑を浮かべた。やはり、彼女には敵いそうもない。


【1743字】

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短いお話の練習

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