FC2ブログ

夏の連載を再開したかったのですが、もう少し時間がかかりそうなので、ストックしておいたネタフォルダから短いお話を……。
暗殺者レン君×マフィアのお嬢様リンちゃん。この手のネタは一度は通りますよね(^ω^)
西洋パロ風なお話をもっと書いていきたい。



籠の外の鳥は

 敷地内への侵入は思いの外簡単で、正直拍子抜けしてしまった。
 屋敷の大きさと住んでいる者が属している組織の規模を考えれば、敷地全体に厳重な警備が敷かれていてもおかしくないはずなのに、どういうわけか、センサーの類はおろか警備犬の姿さえ見当たらない。
 
罠だろうか?
 
 経験からくる第六感が警鐘を鳴らし、一瞬緊張が走る。が、にしては今の自分は落ち着きすぎている。
 事前に調べた情報の中に、屋敷の主のここ最近の立場の危うさを示すものがあった。
 単純に人手不足――いや、資金不足で夜間の警備もままならないだけか? もしくは、誰かに襲われる心配などないと高をくくっているのか。
 木の陰に身を隠して周囲を見渡す。やはり、人の気配はない。

――よし、続行だ。

 自分の感じた不安要素も、恐らく取るに足らないもの。心の声で自分の背を押すと、少年は木陰から飛び出した。

 脳内に叩き込んだ地図を呼び出して、“ターゲット”の居場所と行動パターンを確認する。
 その人物は、屋敷の東側の一番端の部屋にいるはずだ。屋敷の外に出ることは滅多になく、食事と勉学の時間以外は殆ど自室で過ごしている。
 寝静まる時間帯は、平均して深夜を少し過ぎた頃。年齢を考えると少し遅い位だとは思うが……これも、家柄が影響しているのかもしれない。
 腕時計を確認して、少年は一つ頷く。午前二時――どれだけ遅く床に入ったとしても、流石にもう眠っているだろう。
 僅かな溝に手足を掛けて壁をよじ登り、音を立てない様に二階のバルコニーへと降りる。風を取り込む為か、窓は少しだけ開いていた。
 首を伸ばして中を覗き込むと、部屋の中心に置かれた天蓋付きのベッドが小さく盛り上がっているのを確認でき、少年はほっと息を吐き出した。ここまでは予定通り。ターゲットは、既に眠りに就いているようだ。
 音を立てずに少しだけ隙間を広げ、ふわりと舞い上がったカーテンに身を隠す様中へと滑り込む。ターゲットに目を覚ました気配はない。
 そのまま息を殺し、ポケットに滑り込ませた手で中のものを掴む。掌にぴったりと納まるそれは大切な「仕事道具」であり、少年にとってはもはや自分の体の一部の様なものだ。
 気配を消して近寄って、頸動脈をひと突き。これで仕事は終わりだ。声を上げる隙すら与えないから、来た時同様立ち去るのも簡単だろう。それはそれで、つまらないのだが。

 「マフィアのボスの娘を殺してほしい」という依頼は、先日の銃撃戦で息子の命を奪われたという、やせ細った男から受けたものだ。
 自分の受けた悲しみを、憎しみの対象にも味わわせたい。理由はそんな所だろう。
 引き受ける依頼に私情は挟まない主義なので、その男にも、街を脅かすこの屋敷の主にも――そして、今まさに命を狙われているその娘に対しても、少年は何の感情も抱いていない。
 仕事だから殺す。ただそれだけだ。何の罪もない少女に同情でもしてしまったら、ナイフを振るえなくなってしまう。そんなのは馬鹿らしい。
 コツン……。
 碌でもない事を考えていたせいだろうか。思いの外大きく鳴ってしまった足音に舌打ちをしたい気分になりながら、少年はベッドに横たわる“ターゲット”の姿を見降ろした。
 暗がりの中でもわかる、真っ白なシーツに映える金の髪――。僅かに差し込む月明かりを受けてキラキラと輝くそれに、少年はまず目を奪われた。
 綺麗なひとだと思った。事前に調べた少女の年齢からすると、まだ「可愛い」という形容の方が相応しい様な気もするが、少女の置かれた環境が、少女を大人びて見せているのかもしれない。
 すぅ、と息を吸って、ナイフの刀身に手を当てる。少年は仕事で殺す相手に恨みはない。だが、出来る事なら苦しまずに逝ってほしいとは思っている。これは、銀色に輝く刃を赤く染める前の、いわば祈りの様なものだった。

 後から考えれば、この数秒の間が、自分の人生を大きく変えることとなってしまったのかもしれない。
 横たわる少女の首元にナイフを突き付けようと、少年が閉じていた目を開けると――自分を見上げる、二つの青い瞳と視線がぶつかった。

「あら、もっといかついオジサンがやってくるものかと思ったら、随分と若い人じゃない」
「――っ」

 やわらかく微笑まれて、少年は慌ててベッドから飛び退く。いつから――いや、そもそも少女は本当に眠っていたのか!?
 自分のうかつさに唇を噛む少年とは対照的に、襲われかけていたはずの少女はくすくすと笑い声を漏らす。

「そんなに驚かないでよ、殺し屋さん。私、貴方が来るのをずっと待っていたのよ」
「待っていた? 何を――」

 ナイフの柄を握りしめて、少年が低く問う。そんな少年の態度など気にも留めず、少女はベッドから起き上がった。

「父の行動を良く思っていない人なんて、この街には腐るほどいるもの。報復に、と命を狙われない方がおかしいわ。……貴方、最近私の身の回りのことを調べていたでしょう? 前にもこんな感じの事はよくあったから、また誰かが私を殺そうとしているんだって事はすぐに分かった」
「――なら、」

 こちらに向けて歩み始めた少女に、少年は後ずさる。今ここで少女を殺すなど簡単なことだ。なのに、それが出来ずにいる。命を狙われても尚穏やかでいる少女が、少年には恐ろしかった。

「……なら、何故『待っていた』などと言うんだ。君はそんなにも死にたいのか?」
「そんなわけないじゃない」

 少年の問いに、少女はぷくりとほっぺを膨らませる。初めてみせる、少女らしい仕草。けれどそれも、一瞬のうちに消え去る。

「私の命を狙う人は沢山いたけれど、幸いボディーガードをつけてもらっていたから、怪我をしても軽いかすり傷程度で済んでいたの。……でも、中にはやり手の者もいてね。ふた月ほど前に派手な爆発事件があったの、覚えている?」
「……ああ」
「あれね、私が狙いだったの。どうしても外に出なければならない用事があって、最も信頼できるガードを皆連れていったのだけど……それが間違いだったわ。優秀な彼らのおかげで私の命は助かったけれど、ガード達は全滅。残ったガード達も使えないって程じゃないけれど、それでもやっぱり頼りなくて、この間、とうとう最後の一人がやられてしまったわ」
「……」

 少年の目の前で立ち止まると、少女は花を咲かせたようにふわりと微笑む。自分に向けられた凶器など気にも留めず、伸ばした両手で少年の頬を包み込んだ。そして。

「――ねぇ、殺し屋さん。私のボディーガードにならない?」

 小鳥のさえずりの様に、楽しげに囁かれたその言葉に。
 少年は、自分が最初から罠にはめられていたことを、ようやく悟った。

【2668字】

◇◆◇

レン君が暗殺者になったのは、幼い頃に両親を亡くし、天涯孤独の身となった彼を拾ったのが暗殺を生業としている男だったから。暗殺の技術を教え込まれ、生きていくために人を殺している。決して楽しくてやっているわけじゃないんです。
一方リンちゃんは、幼いころから父親が犯す汚い仕事を見ていただけあって、歳の割に大人びています。父親に嫌悪すら抱いているけれど、自分の命は大切にしてくれているし、仕方がないと諦めている。
……などと裏設定を語り出したらきりがないので、この辺で。一応言っておくとこの後レンくんはリンちゃんの優秀なボディーガードになりますよ!
ちなみにレンくん17歳、リンちゃん15歳のつもり。最近デフォルト14歳の鏡音を書いていないなぁ……_(:3」∠)_
タイトルは、籠の中にいると思っていた小鳥が実は外にいて、籠(罠)に閉じ込められたのは自分の方だった、みたいなイメージです。
スポンサーサイト
web拍手 by FC2

硝子瓶の中の泡沫 10

かがパラお疲れ様でした!

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿





trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。