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途中ですが、前回の更新からちょっと経ってしまったので……((∵))
10日目のお話。まだまだ直したい部分がたくさんあるので、後半部分を投稿の際に若干の加筆修正が入ると思われます。なるべく早く更新できるといいなぁ……。
→14日修正しました。


。。。

『男子たち、今日も祭りの準備みたいなんだけど、折角だからユリと三人で冷やかしに行かない?
しょーがないから差し入れも持って行ってやろうと思っているんだけど、リンは――――』

「………………」

 煌々と光る液晶に映し出された文面を無言で眺めて、リンはこてんと携帯を滑り落とす。
 ミキからメールを受け取ったのは一時間以上前だ。バイブ設定はオンにしていたし、受信にもすぐ気が付いた。でも、リンはそのメールにまだ返信をしていない。迷っていて、返信が出来ないのだ。
 正直なところ、あまり気が進まなかった。
 一晩経って少しは落ち着いたものの、少年たちの言葉は未だしこりとなってリンの胸の中に転がっているし、嘘を吐くのも誤魔化すのも得意ではないから、きっと不自然な態度が表に出てしまうだろう。特にユリは鋭いから、川辺で声を掛けられた時と同様、ちょっとした仕草から何かがあった事を察してしまうはずだ。「苦手なクラスメイトに会った」という説明だけで納得してもらえればいいけれど、彼らに何を言われたのかを問われてしまえば……その先も話さざるを得ない。

「どうしようかなぁ……」

 ため息混じりに吐き出したリンの呟きに応えるよう、吊るされた風鈴がチリリン、と鳴る。
 行きたくないわけではない。寧ろ、こちらに居られる残り数日、友人たちとは出来るだけ長い時間一緒に過ごしたかったし、普段見る機会のない祭りの準備にも興味はあった。
 心配だった祖母の体調もすっかり良くなって、今朝も「お友達と遊びに出かけたら?」なんて言われてたばかりだ。祖母はおおらかな人だから、自分の事は気にせず、好きなだけ出掛けて来いと言いたいのだろう。その気遣いは素直にうれしい。
 すっかり体温と同化してしまった畳の上で寝返りを打って、リンはもう一度、受け取ったメールを画面に呼び出す。
 午前中庭に出た時、神社の方へと向かう父より少し上くらいの年頃の男性を何人か見かけたから、準備はとっくに始まっているはずだ。そろそろ返事をしておかないと、予定を立てるミキたちにも迷惑だろう。
 チリリン、チリン――。
 迷いを祓うよう響いた風鈴の音に目を閉じる。どの道、明日の祭りは皆で行動するのだ。顔を合わせるのが一日早まったところで、態度に大きな変化が出るわけではないだろう。それなら……。
 ほんのりと熱を持った画面にゆっくりと指を這わせ、打ち込んだ文章を見返すと「送信ボタン」をタップする。
 大丈夫、「暑い中お疲れ様」と労う位は出来るはず――。
 すぐに返って来たメールに目を通して小さく息を吐くと、リンはいつもより重く感じられる身体をゆっくりと起こした。


 照りつける太陽を麦わら帽子だけで遮って、田んぼと畑に挟まれた日陰のない道を歩いていると、外に出てからさほど時間が経っていないにもかかわらず、剥き出しの腕や首元にはじっとりと汗が滲んでくる。
 空の色は、今日もうんざりする位の青。ここで夕立でも来れば少しは涼しくなるのだろうが、もくもくと浮かぶ雲はのんびりと流れるばかりで、雨の気配は今のところ感じられない。
 待ち合わせ場所は、いつものあの店になった。
 広場に一番近いし、ミキやユリと合流するのにも丁度良いということですぐに決まったのだが、ここ一週間で何度も足を運んでいるリンとしては、おばあさんに「また来たのか」と思われそうで、ほんの少しだけ行きづらかった。一人で買い物に来た時、レンが一緒でない事をからかわれのは、まだ記憶に新しい。
 トウモロコシ畑の角を曲がってしばらく道なりに歩き、青々とした桜の木の横を通り過ぎると――程なくして、古ぼけた店舗と錆びついた看板が目に入った。

「……あ、来た来た。リン、早く!」
 
 約束の時間よりも早めに着く様家を出たのに、店の前には既にミキとユリの姿があった。リンが慌てて駆け寄ると、ミキがいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべてリンの帽子のつばを指で弾く。

「家が近いからってのんびりしすぎじゃないのー? 待ちくたびれちゃったぞ!」
「ふ、二人が早すぎるんだよ! 遅刻はしていないんだからいいでしょ?」
「時間まであと五分だけどね。ちなみにあたし達十分前には着いてたよ」
「う……」

 ニヤニヤと笑いながらも責めるような口調に、理不尽だとは思いつつも口ごもる。ユリもそうだが、ミキの家はここから遠いし、リンより早めに行動しているのは分かる。でも、みんなと合流してからどう振る舞えばいいのかを考えていたら自然と足が重くなってしまったし、昔とは歩幅も時間の感覚も違うのだ、間に合っただけ大目に見て欲しい。

「あはは、冗談だよ。さっきまでユリと喋ってたし、あたしたち自転車だしね。さ、早く店入ろ? 日陰でも午後二時は流石に暑いわ~」
「……もぉー」

 本気で怒っているわけではない事は分かっていたけれど、やはり少しだけ納得がいかない。さっさと話題を変えてしまったミキの背に恨めしく視線を投げるリンに、ユリが苦笑しながら肩を竦めた。


 ガラガラと扉を開けば、天井で回る扇風機の控えめな風を受けながらカウンターで新聞を読んでいるおばあさんの姿が目に入る。彼女は騒ぎながら入って来たリンたちに顔を向けると、皺だらけの口元を更に皺くちゃにして笑いかけた。

「……いらっしゃい。今日はずいぶんと賑やかだねぇ、別嬪さんが揃って何処に行くんだい?」
「お祭りの準備見に行くの! 友達が手伝ってるらしいから、差し入れ持っていってあげようかなーって思って。おばあちゃん、冷たい飲み物見ていくね」
「あぁ、そうかい。ゆっくりしていきな」

 ミキの答えにゆっくり頷くと、おばあさんは再び新聞へと視線を戻す。探し物を手伝ってもらう場合を除いて、彼女は基本的にカウンターから動かない。乾燥した紙がパサリと音を立てるのを聞きながら、リンたちは飲み物売場へと向かった。
 壁に埋め込まれた冷蔵庫の中では、お茶やジュースなど見知ったメーカーのペットボトルが数種類、所狭しと並べられている。ほんのり蒸し暑い店内中でも、この辺りは一段と涼しい。ガラス張りの扉の端の方が温度差で曇っていて、水滴が伝った跡が何筋も残っていた。

「何にするー? ただのお茶じゃインパクトに欠けるし、斜め上を狙ってミルクティーにしてみる?」
「スポーツドリンク系でいいんじゃないのか? 暑いし汗もかいているだろうし」
「えー、ならいっそただの水とか!」
「おまえなぁ……」

 呆れて眉を寄せるユリにミキが舌を出す。普通の差し入れではつまらないのか、ミキが提案するのはあまり喜ばれそうにないものばかりだ。準備の様子を見に行くのも、頑張っている友人たちを応援するためなんかじゃなくて、本当に冷やかすのが目的なのかもしれない。彼女ならありえそうだ。
 そんな友人たちの様子に苦笑しながら、リンはふと左側に視線を落とす。そこで目に入ったものに……思考が固まった。
 水色に染められた透明なガラスの瓶。五日前に手にしたものと全く同じその形に、色に。リンの口からは、無意識にあ、と声が零れ落ちていた。
 穏やかだった心臓がドクンと脈打つ。なるべく考えない様にしていたクラスメイトの言葉やレンの真剣な表情が気泡の様に浮かんでは消えていって、後にはもやもやとした不快感だけが残る。
 ガラス戸から目を背けたリンは、気持ちを落ち着ける様深く息を吸い込んだ。胸の辺りで抱えていた帽子の仄かな麦の香りと、古ぼけた店内に漂う埃とカビの混ざり合ったにおいで思考を満たして、やがてゆっくりと吐き出す。

「……リン、顔色ちょっと悪くないか?」

 肺の中に溜めこんだ熱が空っぽになって、ようやく普通の呼吸を始めたところで、耳元に低く抑えた声が届いた。いつの間にか、ミキの後ろで腕を組んでいたはずのユリがすぐ傍に立っていた。
 探る様に動く、宝石みたいに真っ青な瞳。顔を合わせた時から何かを気にしている風ではあったし、店に入ってからもちらちらと様子を窺われている事には気づいていた。だからなるべくおかしな態度を取らない様、気を付けていたのに……。

「そ、そうかな? 体調は特に問題ないんだけど……」
「いや、体調の事じゃなくて……何というか、この間からちょっと様子がおかしいからさ。何か悩んでるだろ」
「……気のせいじゃない? 毎日暑くて、疲れちゃったのかも。ありがとう、気を付ける」

 重くただれかかってくる様な空気を無理矢理震わせて、笑みを浮かべる。ユリはまだ何かを言いたげに眉を寄せていたけれど、諦めた様に「……ならいいんだけど」と呟くと、それ以上は何も問わず、未だしかめっつらでガラス戸を眺めているミキの隣に並んだ。誤魔化した事への後ろめたさに、そっと手を握りしめた。


 結局、スポーツドリンクと緑茶、サイダーをそれぞれ二本ずつ買って、リンたちは店を後にした。
 ユリの用意してきた保冷バッグに貰った氷と一緒に詰め、他愛のない話をしながら歩いていく内にあっという間に十分ほどが過ぎ、祭りのメイン会場となる広場に辿り着いた。
 小学校の校庭ほどの広さがあるその場所――通称「ふれあい広場」には、既に赤と白のちょうちんが交互に吊るされており、外周に沿って並ぶ屋台に自然と心が弾んでくる。
 公民館のすぐ隣にあるここは花火大会の観覧席となる他に、特設ステージでの催し物が多数予定されている。近隣中学校の吹奏楽部の演奏や近所の老人会によるのど自慢大会は勿論、小さな子供向けに開催される戦隊ショーは、リンたちが小さい頃からの人気イベントだった。ミキの話によると、男子勢は今日、このステージの組み立てで駆り出されているらしい。
 広場手前の中心部辺りに設置されるその場所は、現時点で完成度八割ほど、と言ったところだろうか。若い大人が中心になって、長い木の板や屋根を被せる為の骨組みを運んでいる様子が遠くからでも見て取れた。その中に友人たちの姿は……あれ、見当たらない?

「……あ、いた、あんなところに。やっほー、遊びに来たよ!」

 ぶんぶんと大きく手を振って駆けだし始めたミキの後を視線で追うと、ステージの奥の方にある木の陰にしゃがみこむ見知った姿に気付く。リンの心臓が一瞬きゅっと縮んだ。
 ぐったりと項垂れている二人――レンとミヤは、ミキの声に顔を上げると、控えめながらも応える様に手を上げる。が、どちらも表情が堅い。
 レンは汗の滲んだ額をタオルで拭きながら何とか笑顔を浮かべているけれど、ミヤに至っては声を出すのもしんどいのか、げんなりとした目で見上げて来るのみだ。普段の元気の良さが身をひそめてしまうほど、疲れがたまっているらしい。

「なーに、サボり? 頑張ってると思ったのに全然ダメじゃん」
「ちがう休憩中だ! 見ろよこの滴り落ちる汗……オレたちが朝から積み重ねてきた努力が目に映るだろう!?」
「えー、役に立たなくて追い出された様にしか見えないんだけど?」
「同感だな」
「そりゃないよ~……」

 力尽きた様に土の上へ座り込んでしまったミヤを見て、ミキがケラケラと声を上げる。二人には悪いが、完全に戦力の外にいる様子に少しだけ拍子抜けしてしてしまったことはリンも否定できない。
 双方からの同意を求める視線に曖昧に笑みを浮かべて誤魔化していると、いつもの様に呆れ顔で二人を眺めていたユリが思い出した様にきょろりと辺りを見渡した。

「……そういやピコは?」

 言われてみれば、先ほどから彼の姿が見当たらない。ユリの問いに、余程不満がたまっていたのかミヤが勢いよく顔を上げる。

「アイツの方こそサボり! 焼けるし体力仕事は自分には向かないからパス、だってさ。ちっくしょー、オレたちが汗水たらしてる間、あいつはクーラーの効いた部屋で優雅に過ごしてるんだぜ。許せん!」
「……課題が多くて、出来るだけ進めておきたいんだって」
「はぁ、何だよそれ、聞いてないぞ!」

 そっと付け足されたミキの言葉にミヤは一層憤慨する。あまりにも自然なその流れに、けれどリンはあれ、と首を傾げた。レンもミヤも知らない話を、どうしてミキが知っているのだろう。

「ていうかお前ら何しに来たんだよ。へばってるオレら見て笑うだけだったら帰れよなぁ」
「そんな事言っていいのぉ? せーっかく差し入れ持ってきてあげたのに、そっかぁ、要らないってことでいいのかぁ」
「ようこそいらっしゃいました!」

 ミキの挑発するような言葉にあっさりと態度を変えたミヤを見て、ユリとレンも顔を見合わせて苦笑する。
 
――やっぱり、気のせいかなぁ?

 いつもと同じ賑やかな空気に、ふわりと浮きあがった疑問はいつの間にかどこかへと消えてしまっていた。
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