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順当に行き詰っております\(^o^)/
10日目その2。まだまだちょっと気になる感じなので、時間がある時にこっそり直しているかもしれません。やっぱり人数多いと楽しいけど動かしにくい!><
そしてべったべたな展開です。恋する乙女を書くのは難しいですね……。
。。。

 バタン、ガタン――。
 リーダー格と思しき年配の男性の指示に従ってステージが組み立てられてゆく様子を木陰から眺めながら、暫くの間沈黙が続く。疲れているであろう二人は当然だが、この暑さだ、リンたちも自然と口数が少なくなる。
 預かっていた保冷バッグを肩から下げたままだったことを思い出して、地面に置いてじりじりとジッパーを引くと、準備が終わるまでの場繋ぎのつもりか、ユリがレンに話題を振る。

「ずっと働きっぱなしだったのか? なんかえらく消耗してる様だけど」
「いや、僕らは結構気を遣ってもらってるみたいで、ちゃんと休憩取れてるよ。実行委員会からお昼と飲み物も出たしね」
「あ! それ、近所のおばちゃん達がおにぎり振る舞ってくれるんでしょ? うちの伯母さんも毎年手伝いに行ってるんだって。『皆たくさん食べるから作り甲斐がある』って豪快に笑ってたよー」

 首を突っ込んできたミキの後を、ミヤが「でもなぁ」と繋ぐ。

「一人三個までって少なすぎないか? こんな体力使うのに、ぜってー足りないだろ!」
「人の分奪っといて何言ってるんだよ」
「一個のうちの半分じゃん、レンが満腹そうにしていたから手伝ってやったんだって」
「……お前、本当に食い意地だけは人一倍だな」

 心底呆れたユリの呟きに、みんな一斉に笑い出す。ただ一人、納得いかなそうに顔をしかめているミヤの前に、リンはペットボトルを差し出した。

「お疲れ様、ミヤ君。飲み物、三種類あるんだけど、どれがいい?」
「うぉぉぉ、やっぱオレの味方はリンちゃんだけだ! あいつらホント酷いよなぁ、オレが何したんだってーの!!」

 わざとらしく嘆きながら振り向いたミヤは、リンと視線が重なると――その目を一瞬だけレンの方に動かす。

『さっきの事、レンには内緒にしておいて――――』

 震える声で頼んでから、まだ一日と経っていない。
 元クラスメイトとの遭遇はリンにとってあまりいい出来事ではなかっただけに、事情を知っているミヤとしても色々と気にかかるのだろう。鮮やかな緑の瞳が心配そうに瞬く。そんな彼に、「ありがとう、今は大丈夫」と伝えるよう軽く首を傾けると、ほんの少しだけほっとした色が浮かんだ。

「おっ、サイダーあんじゃん。丁度甘いものが欲しいと思ってたんだよねー、これちょーだい!」

 そう言ってリンの手からサイダーのペットボトルを引き抜くミヤの声は、もういつもと同じ調子だ。首にあてて「あぁぁぁぁ冷てぇ、生き返る!!」と眼を閉じる様子が本当に気持ちよさそうで、思わず口元が緩む。喉の渇きを潤すよりも、身体の熱を冷ます方が優先事項らしい。
 そのまま視線を横に移して、すぅ、と息を吸うと――。

「……レンは、何飲む?」

 たった一言問いかけるだけなのに、緊張のせいか、声がわずかに上擦ってしまった。無理矢理作った笑顔も気を抜いたら簡単に剥がれてしまいそうで、力を入れすぎた頬がじんじんと痛い。

「んー……じゃあこれで」

 レンはリンの掌に並べられたボトルを睨んで数秒悩むと、スポーツドリンクに手を伸ばす。青いラベルのボトルが手の中から抜き取られるのを見届けて、さっと背を向けた。うっかりボロを出さない様、今は出来るだけ顔を合わせたくない。

 ミキとユリが続いて選び、最後にリンがお茶のボトルを取り出して、バッグは蓋を閉めて端の方に寄せておいた。
 水滴の浮き出たボトルを頬にあてれば、ぴちゃりと吸い付く水の感触と冷たさに熱が奪われていく。ああ、そういえばラムネを奢ってもらった時も、こんな風に瓶を当てていたっけ――。
 閉じていた目を開けてそっと視線を送ると、レンは作業中の苦労を力説するミヤの隣で笑い声を漏らしていて、リンに見られている事には気づいていない。

『知ってるか? アイツ、小学生ん時お前の事好きだったんだぜ』

 普通。それがありがたいのと同時に、リンの心をもやもやと曇らせる。
 ひょっとしたら、だなんて。そんな憶測は見当違いで、レンは自分の事を別に何とも思っていないのかもしれない。だから、お互いの体温や息遣いが感じられる位近くなったって、何もなかったみたいに振る舞える。
 ラムネの時だって、ただ単に昔の恋心を、懐かしい思い出として聞かせようとしただけなのではないか。いきなり子供の頃の話を持ち出すのは、今思えばなかなかに不自然だった。

――なんだか、わたしだけが気にしてるみたいじゃない。

 一度そう考えてしまうと、もう自分では止められなかった。
 些細な行動に、言葉に振り回されて気持ちがぐらぐら揺らいでいるのに、当の本人は平然としている。それが、少しだけ気に入らない。平然とされて残念だなんて思ってしまう自分は、もっと……。
 ジリジリと響くセミの警告に、いつの間にか唇を尖らせていた事に気付く。その不貞腐れた子供の様な仕草が尚更気に入らなくて、八つ当たりでもするみたいに、ボトルのキャップを強く捻った。


「明日は夕方5時に公民館の前で待ち合わせね! リンは例の件、おばあさんに確認しておいて。ユリ、おとーさんがここまで送ってくれるって言ってたから、4時半くらいにに迎えに行くね」
「うん、ありがとう」
「助かるよ」
「それじゃ、また明日!」

 手伝いを再開した二人を眺めて(応援して)いる内に祭りの準備は大方整い、最終確認をする主催メンバー以外は解散となった。
 明日の予定を簡単に決めて軽い挨拶を終えると、ミキたちは自転車に跨って家へと帰っていく。
 遠ざかっていく背中を笑顔で見送って……ここからが、気まずい時間の始まりだった。

「さて、僕たちも帰ろうか」
「……うん」

 ……ああ、こんな事なら先に帰っちゃえばよかったなぁ。
 隣からの声に頷きながらも、リンは少しだけ後悔していた。レンとは家が同じ方面だから、必然的に帰りも一緒になる。友人たちのいる間はある程度普通に話したつもりだが、二人きりになってしまうと……どうしても言葉が出てこない。
 夕日を背に戻る足取りが自分でもわかる程度に速くなっているのは、一秒でも早く別れたかったからだろうか。細いアスファルトの道を鳴らすサンダルの音が、一層リンの気持ちをはやらせる。

「今日はありがとな、差し入れ助かったよ」
「…………あれは、ミキちゃんの提案で」
「でも、リンも来てくれたじゃん」

 少しだけ顔を上げて隣を窺うと、視界に入るのは人懐こそうなレンの笑み。わかっている、レンが悪いわけではない。昔の事を引っ張り出してはやし立てたのはクラスメイトだし、その言葉に思い悩んでいるのも自分の勝手だ。……なのに、心のもやが消えない。

「……早く帰ろ。あまり遅くなるとおばあちゃん心配するし、夕ご飯の手伝いもしなきゃだから……」
「ああ、ごめん、遅くまで付き合わせちゃって。ていうか、わざわざ待ってないで先に帰っても良かったんだけど? リンは皆に合わせてくれてたんだろうけど、暑いし準備なんて見てて面白いもんじゃないし、退屈だったろ」
「……そんな事ない。時間も、この位だったらぜんぜん平気だし」
「そう? 何かそわそわ落ち着かない感じだったし、もしかして帰りたいのかなーって思ったんだけど」
「べっ……別に、そう言う意味じゃないから!」

 逃げる様に一歩、二歩と前へ出るリンの後ろを、レンは特に急ぐこともなくゆっくりとついてくる。当然ながら歩幅が違うから、そう簡単に距離は開かない。それどころか、レンはリンの焦りに全く気付いていないらしく、のんびりと話を続けてくる。

「降ったら降ったで大変だけど、こう天気が良すぎても困るよな……。リンたちが来る前にも一人体調崩したやつがいてさ、ミヤと一緒に『ピコは来なくて正解だった』って話してたんだ」
「……ピコ君、すぐにダウンしちゃいそうだもんね」
「だよな。この間もずっと一人で日陰にいたし、本当に夏が似合わないというか。アイツが汗かいている姿なんて想像できないよ」

 からからと転がる笑い声にほんの少しだけ首を動かして相槌を打って、でも振り向くまではしない。

「そういえば、昨日の……プレ点灯式っていうのかな? 結構面白かったよ。広場のちょうちんってみんな電気だけど、神社の方はちゃんと火を使うんだな。一つ一つろうそくに火を灯すんだけど、それが綺麗で。あっちの会場ってさ、古臭くて地味な儀式がメインだから子供の頃は全然近寄らなかったけれど、折角だから今回はちょっといろいろ見てみようかなーって……興味がわいた」
「そう……」
「リンも行こう。花火の前なら時間もあるし、会場の場所取りだったらミヤ辺りに任せときゃいいから」
「……うん、そうだね」

 そっけなくなる返事。取り繕う余裕なんて、今のリンには無かった。
 あくまで呑気な態度を貫くレンに、焦りよりも苛立ちが募ってくる。
 やっぱり、レンはわたしの事なんかなんとも思っていない。紛らわしい態度だってきっと、友達――幼馴染としての認識しかないんでしょ? こうやって誘っているのだって小さい頃の延長線で、他に意味なんか……。
 未練がましい自分の考えにむっとして、歩く速度をまたワンテンポ上げる。
 そんなあからさまなリンの態度に――とうとうレンの方が限界を超えた。

「……リン。何怒ってるの」

 温度の低い声が背中に当たって、その迫力に肩が跳ねる。
 苛立ちの混ざった、怒っていると直ぐにでもわかるような声。こんな強い感情を向けられるのは初めてで……思わず狼狽えてしまう。

「お……怒ってなんか」
「じゃあ、せめて振り向くとか、何かしら反応くれたっていいんじゃないの? さっきから僕の話、聞こうとしていないだろ」
「……ッ、そんな、こと……!」

 ない、とは言えない。だって、会話を避けようとしていたのは事実だから。
 怯んで動きが鈍くなった隙に距離を詰めていたレンは、振り上げられたリンの手を後ろから掴むと、そのまま強引に引き寄せる。思わず悲鳴が漏れた。

「いっ――、た」

 強い力で握られた手のひら、次いで肩に走った痺れに顔をしかめると、ハッとする気配と共に一瞬だけ力が緩む。けれど、それもリンが振り払う前に握り直されてしまった。逃がすものか、とでもいう様に。
 苛立ちに染まった表情は、リンの怯えた様子に気付くと苦しげに歪む。まるで自分が傷つけてしまったみたいで――そうとは認めたくなくて、視線を逸らした。

「……僕、何か嫌なことした?」

 レンの声はもう怒っていない。代わりに困惑と、ほんの少しの不安に染まっている。
 掴まれた右手も多分、今なら振り払うことが出来る。それをしなかったのは、リンの心に罪悪感が残っていたからだろうか。

「してない……本当に何でもないから」

 そう、レンは何もしていない。けれど、こんなにも気持ちが不安定なのは、確かにレンが原因で。
 勝手な想像に一喜一憂しているのはリン自身だ、レンに対して不満を言う筋合いなんてどこにも無い。
 ……けれど、そうなったらこの気持ちは一体何処へ向ければいいの?
 解っている、こんなのは一方的な八つ当たりだ。言葉に出せない代わりに、態度で苛立ちをぶつけている。レンが困るとわかっていて、わざとやっているんだ。
 一刻も早くこの場から立ち去りたかった。心臓は今でもキリキリと悲鳴を上げていて……なのにどうして、こんな風に引き止めたりするの?

「ごめん、わたしやっぱり急ぐから」

 この辺りが限度だと思った。左肩にかけているバッグの紐を強く握ると、そのままくるりと前を向く。

「……! 待てってば、リ」
「――――っ、やめてよ!」

 喉の奥から叫ぶような声が出た。
 勢いで手を振り解き、そのまま進む先の地面を食い入るように睨み付ける。思いがけない反撃に固まってしまったのだろう、背後でレンが動く気配はない。

「……レンってさ、結構遠慮がないよね」
「え……?」

 戸惑いを含んだ声に、リンの心はささくれ立つばかりだ。
 口から滑り出す言葉は支離滅裂。本当に言いたかったのは何だったのか、もうわからない。

「……引っ越してからは、男の子が女の子に気軽に触ったりとか、あんまり見なかったから……。引き留めるためだとしても、あんな風に普通に手を握れちゃうんだって……」
「それ、は……!」
「夕立の時だってそう。『もういい』って言ってるのに全然離してくれないし……いくら幼馴染だからって、わたしたちもう小さな子供じゃないんだから、あんな事、普通、しないよ」

 息を呑む気配を感じて一旦言葉を切る。そこで思い出してしまった声に――却って頭が冷えた。

『真面目そうな顔して、アイツだってきっといかがわしいこと考えているんだぜ』

 ……ちがう、レンはそんな事を考える人じゃない!
 やり方は強引でも、あれは苦手な雷に怯えるリンをレンなりに守ってくれていただけだ。そこにやましい気持ちなんてあるはずがない。
 ここで流されたらあの人の思う壺だ――クラスメイトの戯言をまんまと重ねてしまいそうになった事が恥ずかしくて、申し訳なくて、頭の中で慌てて否定する。
 けれど、一度溢れ出してしまった言葉を止めることは、リン自身にも出来なくて。

「……そういうのって、下心があるみたいで……気分、よくない」

 思ってもいない事を吐いた。


「――――……」

 二人きりの世界には、ヒグラシの鳴き声が寂しげに響くだけで、リンは両手を握りしめたまま、後ろを振り向く事すら出来ない。
 レンはまだ何も言わない。どんな表情をしているのかもわからない。
 怖い――。初めて、そう思った。
 何と弁解すればいいかわからずにぱくぱくと口を動かしていると、後ろで小さく息を吐く気配がした。

「…………この間から僕の事を避けていたのも、それが理由?」

 問われてリンの背が冷える。
 気付かれていたことが怖いんじゃない。勢いに任せてぶつけた言葉をレンが信じてしまった事の方が、ずっと怖かった。
 けれど、今更「さっきのは嘘だ」なんて言えるはずもない。理由は異なるとはいえ、避けていたのは事実だ。
 俯いたままこくりと首を縦に振る。そんなリンに、レンはたった一言「そう」とだけ呟いて――……そのまま、リンを置いて先に歩いていってしまった。

「レ…………」

 引き留められるはずがない。そんな資格、自分にはないんだ。
 遠ざかっていく背に投げかけた声は、じめじめと重い空気に虚しく混ざるだけ。聞こえていないはずはないのに、レンが振り向かなかったのは、それだけ怒っているのか、あるいは。
 逃げることに必死で気付かなかったが、いつの間にかレンの家の近くまで来ていたらしい。その姿はすぐに建物の影に消えてしまい、誰もいない道の真ん中に、リンは一人取り残された。

「…………っ」

 俯いた地面にぽつりと雫が落ちる。ああ、やっと夕立がきたのかな――……痺れる頭の片隅でそんな事を考えていたけれど、雨がそれ以上強くなる気配はなく、代わりに自分の頬を伝うあたたかい雫がぽつり、ぽつりと地面に落ちては吸い込まれていくだけだった。
 何で泣いているんだろう。わたしのほうが、ずっとひどい事を言っているのに……。
 すれ違い際に見えた押し殺した様な横顔と、一言だけ残された静かな声が脳に焼き付いて離れない。
 不安定な積み木の城を――新たに積み上げたレンとの関係を崩したのは、他でもない、自分自身だ。帰るまでは残り三日しかないのに、もう一度最初から積み直すなんて……そんなこと、きっと出来ない。それだけのことを言った自覚はあった。
 ぽつ、ぽつり――。
 涙は止まらない。固い地面に縫い付けられてしまったかのように、リンは暫くの間、その場から動くことが出来なかった。




 その後、どうやって祖母の家まで戻ったのかはあまり覚えていない。
 夕飯の準備を始めていた祖母が、赤くなったリンの目に気付いて心配そうに声を掛けてきたが、何も答えずにその前を通り過ぎる。この家にいる間はなるべく料理の手伝いをするようにしていたが、今夜はそんな気分になれそうもなかった。
 自室に行き、畳の上に膝から崩れ落ちると、タイミングを狙ったかのようにカバンの中で着信音が響いた。ミキからの電話だ。

「もしも」
『もしもしリン、今大丈夫!?』

 噛みつく様な勢いに、一瞬言葉を詰まらせる。

「え、と………大丈夫、だけど」
『今家?』
「え? うん、そうだけど……」
『よかった! 今からそっち行くから、ちょっと時間ちょうだい。ダッシュで行けば十分かからないと思う、多分』

 聞こえてきた言葉を理解するのに、十秒ほどかかった。

「えっ……今から!? だってミキちゃん、もう家に着いているんじゃ」
『ご心配なく、あの後ユリたちと話してたからまだ帰りの途中。まぁ、あんま遅くなりすぎると家族がうるさいけど、この位だったら許容範囲だよ』
「でも」
『つべこべ言わずに付き合えっていうの! 完全に暗くなるまでまだ時間はあるし、あたしは平気だから』

 田舎道は街灯も少なく、暗くなってから出歩くのはそれなりに危ない。
 ここに来るまでは問題ないとしても、帰る頃にどうなっているかはわからないのだ。リンとしてはあまり気が進まない。

「……何か、大事な用なの?」

 ただの相談や連絡だったら、メールなり電話なりで済ますことが出来る。
 それをせずに直接、しかも今すぐにという事は。

『……まぁ、大切な事、ではあるかな? ちょっとね、リンに話しておきたいことがあるの』

 電話の向こう側で、友人がおどけた様に笑った気がした。

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