昨年某所で開催されていたデフォみねワンドロ(=一時間で書く)企画に参加したお話を移動。デフォみねと言いつつ視点はミクです。
絵描きさんのワンドロはよく見かけますが、小説でワンドロって結構きびしいですね……。参加した時は予め知らされていたお題から大まかなプロットを練っておいて、開始時間になったら書き始める…といった感じでした。全然うまくまとめられませんでしたが、早く書く練習としてはいいのかも……?機会があったらまた挑戦したいです。


。。。
イエロー・ローズ

 スタジオの床に腰を下ろして楽譜を広げると、そこに並ぶメロディを口ずさむ。
 らん、らん、たららん。
 練習はもう何度もやっているから、曲を流さなくたって頭の中ですんなりと思い浮かべることが出来る。そうやって一人で歌っているとスタジオのドアが控えめに叩かれて、私は束の間の個人練習を中断した。
 ずっしりと重いドアを押して僅かに開いた隙間から覗き込むと、まず最初に目に入ったのは真っ白なリボン。それから少し癖のある蜜色の髪に、青い海を思わせるきれいな瞳が緊張した様に揺れる。

「いらっしゃい、リンちゃん。今日もよろしくね?」

 なるべく明るく、柔らかくなる様に声を掛けると、少女、リンちゃんはびくりと肩をはねさせて、それから慌てた様によろしくお願いします! と頭を下げる。
 う~ん、まだ完全に気を許してくれるまでは、時間がかかるかなぁ。
 綺麗に四十五度傾いた頭を見下ろして、私は静かに苦笑をこぼした。



 リンちゃんがこのスタジオにやって来たのは、今度のコラボ動画のレコーディングの為だ。私のマスターが彼女のマスターに声を掛けて、デュエットを歌う事になったのだけど……困ったことに、このリンちゃんは極度の人見知りだった。
 通算五回目の顔合わせとなるのに、未だスタジオに入る時は恐る恐るって感じだし、私に対する言葉遣いもどこかぎこちない。まあ、性格なんて人(というかボカロ?)それぞれだしある程度は仕方がないかなぁと思えるのだけど、そろそろ仲良くなりたいなぁ……なんて、きっと彼女には伝わっていないのだろう。
 緊張で身を固めたみたいなリンちゃんは、スタジオの中に入ってもまだ所在なさげにきょろきょろと視線を彷徨わせている。けれど、部屋の隅に置かれたテーブルの前で足を止めると、そこに飾られたものを見て「うわぁ」と感嘆の声をもらした。

「どう、綺麗でしょ?」

 話題を共有できるならなんだって、と飛びつくように問いかけた私にリンちゃんもこくりと首を振る。

「スタジオ、お花飾ったんだね」
「うん。うちのマスターがね、『女の子が二人そろってるのにスタジオが殺風景じゃつまらないよな』って、今朝贈ってくれたの。女の子だから花だなんて、単純だよねぇ」

 リンちゃんのイメージカラーが黄色だから、黄色の花。何から何まで単純な思考に正直「馬鹿じゃないの」と思ったけれど、折角のお節介を無下にするのも気が引けるから、似合いそうな花瓶を探して飾っておいたのだ。その時はこうやって興味を持ってもらえるだなんて思いもしなかったから、嬉しい誤算、かもしれない。

「でも、すごく綺麗」

 そう言って花を見つめるリンちゃんは、やわらかく笑っていて。ああ、やっぱり女の子なんだなぁ。とりあえずマスターには後で「GJ!」と言っておかないと。

「気に入ったなら持って帰ってもいいんだよ?」
「えっ……でも……」
「綺麗な花は、綺麗なお嬢さんの元で咲く方がきっと相応しいですよ」

 芝居じみた口調で花瓶から花を一本抜き取り、彼女のそっと前に差し出す。
 リンちゃんは暫くの間呆けた様に目をぱちくりとさせていたけれど、やがてぷ、と吹き出すと「ありがとう」と言って花を大事そうに受け取った。
 彼女の周りに漂っていた緊張も、氷の様に解けていた。


***

「――ところで、リンちゃんは今日も『例のアレ』、持ってきているの?」

 レコーディングの準備が整うまでの中途半端に持て余してしまうこの時間、隣で自分のパートの確認をしていたリンちゃんに何となしに問いかけると、彼女ははにかむ様に微笑んで、胸の辺りで握りしめていた右手をそっと開く。

「うん、ここにあるよ」

 私のものよりほんの少しだけ小さい手のひらに乗る、爪のサイズほどのデータチップ。このスタジオに来る時は必ず持ち歩いているそれは、彼女に言わせてみれは「お守り」なんだとか。

『わたし、マスターとレン以外の人に会う事ってあまりないし、知らない人と話すのはあまり得意じゃないから、今回のコラボのお話を貰った時も、一人じゃ怖い、嫌だって泣いちゃったんです。……そうしたらレンが、これを持たせてくれて……』

 まだ私に対して敬語が取れていなかった頃に、彼女がたどたどしくも話してくれたことだ。
 あのデータチップには、彼女と彼女の片割れであるレン君の歌が入っているらしい。自分は一緒に行けないけれど、これでいつもそばにいられるから。そんな事を言って、彼女を励ましてくれたのだとか。
 リンちゃんは、練習する時も、レコーディングの時も、その「お守り」を離さない。両手で包み込む様にして歌うリンちゃんは穏やかで落ち着いている。きっと彼女の横には、彼女の歌声を支える様に声を重ねる、彼女の片割れの姿があるのだろう。

「…………なんか、妬けちゃうなぁ」

 一緒に歌っているのは、私なのに。
 最初のころに比べたら大分距離が縮まったはずなのに、彼女が一緒に歌いたい一番は、いつだって彼女の片割れで。それは、これから何度練習を重ねたって、覆ることは無いのだろう。
 俯いた私に、リンちゃんが不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの……?」
「……ううん、何でもない! リンちゃんはレン君の事が大好きなんだなぁって、そう思っただけだよ!」
「うぇ、だ、だいすきだなんて、そんな……!」
「あれれぇ、顔が赤いぞ? リンちゃんは本当にかわいいなぁ~」

 ほんのりと染まった頬を突けば、くすぐったそうに身を捩る。こんな風にじゃれ合っている時なら、いくらだって私を見てもらえるのになぁ……。
 歌が始まってしまえば、彼女の気持ちは私を通り越して片割れの方に向かう。
 あんな小さなデータチップひとつに適わない歌姫だなんて――――。

「……さて、準備が終わるまでもう少し時間がかかるみたいだし、ちょっとだけ練習してよっか」
「! ……は、はいっ!」

 気持ちを切り替える様に大きな声を出すと、リンちゃんはピクリと背を伸ばして、慌てて私の後につく。
 胸の中に広がったもやもやとした感情は、暫くの間表に出ない様、しっかりと蓋をして奥の方に押し込めておいた。

 片割れの事をいつだって考えている彼女はすごく微笑ましくて、

 ちょっとだけ、悔しかった

【2477字】


◇◆◇

お題「もちもの」より。
鏡音で持ち物といったらミカンやらバナナやらが多いのかなぁと思って、ちょっと違う視点から行きたい!→鏡音のイメージカラーは黄色→黄色い花!と連想したらしいです。
黄色い薔薇の花言葉は「嫉妬」。仲の良いリンとレンに嫉妬するミクさんでした。
(デフォみねワンドロでミクさん視点やらかしてますが、他のキャラクターから見た推しキャラ解釈って好きなんです…)
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久しぶりの曲紹介

お年賀だったもの

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