気が付いたら七月が終わっていました……_(:3」∠)_
かがパラで無料配布したお話の一つです。ツイッターのタグで戴いたタイトルからイメージしました。
鏡音×夏×青春は最高ですね!!(大好きです!)


サムシング・ブルー

 私の世界は青いもので満たされている。
 例えば、見上げた先に広がる空。塩素の臭いが立ち込めるプールサイド。それから、
「……みつけた」
 私を覗き込む、不機嫌そうな瞳。


.。o○.。o○


 夏休み中の学校は意外と賑やかなもので、グラウンドで試合をする野球部の掛け声だとか、コンクール間近で張り詰めた吹奏楽部の演奏なんかが、ちゃぷちゃぷと波打つ水越しに絶えず聞こえてくる。
 可愛さの欠片も無い学校指定の水着に身を包んで、たった一人でぼんやりと空を見上げるのは、結構お気に入りの時間だ。勿論、冷たい水の中を思いっきり泳ぐのも大好きだけど、こうやって頭の中を空っぽにしてぷかぷか浮かんでいると、どこからか飛んできた葉っぱにでもなったみたいで、気持ちがいい。そんな話を親友にしたら「リンって変わっているよね」なんて呆れ顔で笑われたけれど、彼女は水に触れる機会が少なくてこの感覚がわからないのだろうし、別に気にしない。いいじゃない、葉っぱ。
 ……さて。本来ならば、その葉っぱタイムは誰にも邪魔されない様こっそり行われているはず、なのだけど……なんで。どうして。ていうかどうやってここを突き止めた。
「神威が、多分プールにいるだろうって。さっき校内で会った」
「……私、まだ何も言っていないんだけど?」
「顔に書いてあるだろ、『何で来たんだ』って」
 顔だけじゃなく声にまで不機嫌を滲ませて、私を睨むクラスメイト、鏡音レン。奇跡的に苗字が同じなだけの赤の他人である彼とは、出席番号があいうえお順である事により席が隣になるというベタな出会い以降、何かと縁が続いている。例えば、通学に使っている自転車のメーカーが同じだとか、所属することになった委員会が同じだとか。別に嫌じゃない。
 ちゃぷり、と水の中で身体を捻って、プールサイドに腕を置く。濡れたこの辺りは生暖かく感じる程度だけど、乾いた部分は多分ホットプレートみたいにあつあつだ。ちなみに鏡音は入り口にあったサンダルを借りて来たらしい。ちゃっかりした奴だ。
「で、こんな所まで何しに来たの? 夏休みの学校を探し回るほど、私に会いたかった?」
 我ながら完璧なんじゃないかって位いい笑顔を浮かべて、ほんのり上目づかいに見上げると、鏡音はゼンマイが止まったブリキの人形みたいにぽかんと口を開いて硬直する。そのまま動き出すのを待つ事数秒、何かが――具体的には、ヤツの堪忍袋の尾とやらがぷちんと切れる音を聞いた。
「あのさ。忘れてたんなら教えてやるけど、今日の花壇当番、俺達だからな! 俺と、お前!」
「花壇…………」
「……おい、まさかマジで忘れてたんじゃないだろうな?」
「…………ああ! 大丈夫、覚えてる覚えてる。後で行こうと思っていたところだよー」
「嘘つけ何だ今の間は」
 ごめん、完全に忘れてたわ。
 楽できそうだから、という一方的な先入観により選んだ緑化委員は、長期休暇中に交代で校内の草花の世話をしなければならないというまさかのトラップ付きだった。仕事内容としては花壇の水やりと雑草取りだけど……まぁ、この暑い中じゃ草むしりなんて誰もやりたがらないから、大体みんな水だけ撒いて終わりにしてしまう。うん、そういえばそろそろ当番来そうだなー、面倒だなーとか考えてたっけ。つまり「仕事サボるな」って探しに来たのかコイツは。いやぁ、手間取らせてスマンかった。
 全く信用していなさそうな冷めた声を聞き流して、誤魔化す様にじゃぷん、と両足を交互にばたつかせる。飛び散った飛沫が背中と肩、そして目の前に立つ鏡音の足もとに掛かった。なんだかとっても機嫌が悪そうだから、もうちょっとだけのんびりしていこう。
 再び仰向けになって、葉っぱみたいにぷかぷかと水面に身を委ねる私に、鏡音は何か言いたげに口を開いたけれど、結局諦めたみたいで不機嫌そうに口を尖らせる。なんだろう、私はこいつの怒った顔ばかり見ている気がする。笑ったら可愛くなりそうなのに勿体ないぞ、少年。イライラが抑えられないなら是非ともカルシウムの摂取を推奨したい。
「……こういう事って、よくするのか?」
「はいぃ?」
 そうやって適当な事を脳内で語りかけていると、唐突に意味の解らないことを問われて素っ頓狂な声を上げてしまう。その反応が予想外だったのか、鏡音が狼狽え気味に眉をひそめる。
「いや、だから……そうやって一人で学校のプール占領して、ぼーっとしてるの。よく怒られないね」
 なるほどそういう事か。両腕で水をかき回して、沈みそうになった体をもち直させる。
「今日は水泳部の練習お休みだから。『個人練させてくださーい』って頼んだら鍵くらい貸してもらえるよ? というか、先生ならアイス差し入れしてあげればイチコロ」
「……あンのバカ教師、良いのかよそれで! ていうかよくないだろ絶対!!」
「カイトくんはアイスで釣るべし」
「やんねーし。ていうかやるなし」
 相変わらず優等生君だなぁ。本当に持って行くわけないじゃん、買い食いは校則違反なんだし。
 きらり。太陽の日差しが眩しくて、思わず目を細める。片手でその光を遮ろうとした途端バランスを崩して、開いた口の隙間に流れ込んだ水を思わず飲みこんでしまった。……不味い。
 今日も、いい天気だ。濃く透き通ったスカイブルーに浮かぶ雲は、このあたり上空ではまばらだけど、南の山沿い辺りは怪物みたいにおっきい入道雲がもくもくと立ち上がっている。もしかしたら、夕立が来るかもしれない。
「……ねー、サボっちゃおっか?」
 なんとなく呟いてみると、横からの不機嫌オーラが増す。おお、何と分かりやすい。
「だって雨降るかもだよ?」
「……仕事は仕事。どんな理由があってもサボるのはダメだろ」
「えー、バレないよきっと」
「そういう問題じゃないから。というか、降らなかったらどうするんだよ、この暑さじゃ花枯れるぞ?」
「うーん……」
 別に、本気でサボりたいわけじゃないのだけど。非の打ち所のない正論に素直に屈してしまうのも勿体ない気がして、よいしょ、とプールの底に足を着くと、
「――――えいっ」
「!?」
 勢いよく両手をバンザイさせて、水をかき上げる。太陽の光を受けてキラキラと宝石みたいに輝く水しぶきは、油断していた鏡音の制服をあっという間にびしょ濡れにさせた。ワイシャツの下に着たタンクトップの群青が、濡れた部分から透けて見える。
「ッんにゃろ、何するんだよ!?」
「わぁ、雨が降って来たねぇ」
「何が雨だ、水ぶっかけやがって……! あ、おい何す、やめろ!」
「あはは、夕立だぁ!」
 ばしゃばしゃと手をばたつかせて近寄らせない様に水かけ攻撃を繰り返すと、直ぐに背を向けて水の中に潜り込む。膜を隔てた向こう側から「逃げるな!」と叫んでいる声が聞こえるけれど、気にしない。
 水色塗装が所々剥げたプール底には水面の模様が映し出されて、踊っているみたいにゆらゆらと揺れている。ここでは水はどこまでも透明だ。海みたいに綺麗な青だったら、もっと気持ちいいだろうに。……ああ、なんか海に行きたくなってきた。
 25メートルのちょうど真ん中あたりで水面から顔を出すと、プールサイドには人工夕立でずぶ濡れになった鏡音レン。怒りで沸騰しそうなその目も、海みたいに綺麗な青。嫌いじゃない。その青に向かって手を上げる。
「花壇、先に行ってて! 着替えて来るから!」
 からかうのはこれくらいにして、真面目にお仕事しますか。不機嫌なあいつも嫌いじゃないけれど、これ以上やると私が嫌われてしまう。
「……サボるんじゃないだろうな?」
「サボらないよー、当番だし」
「十分で来いよ」
「えー、早すぎ! 女の子の着替えは時間がかかるんだよ」
「知るか」
 ぴちゃぴちゃとサンダルを鳴らして更衣室の方へ向かう背中を見送って、もう一度だけ空を見上げる。
 青い空。青い海。そして不機嫌そうな青い瞳。
 私の好きなものは、たぶん、青い色で出来ている。

◇◆◇

タイトルの「ブルー」から、水に浮かぶ水泳部リンちゃんと真っ青な空をイメージしました。
のらりくらりマイペースなリンちゃんに振り回される真面目レンくん。そしてカイト先生は生徒に甘い。
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あおい話 その2

久しぶりの曲紹介

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