かがパラで出したコピ本のお話二つ目です。こちらもツイッターのタグで戴いたタイトルから。遠征前日に書き上げた関係上、内容にまとまりがないです……ギリギリ作業ダメ、絶対。
モジュみねで青黒ちゃん、いつも書いているシリーズとは別物です。


モノクロ・ブルー

 三時間に及ぶ収録を終えて「家」に戻った俺を迎えたのは、ソファーの上で猫みたいに丸まった相方の背中だった。


☆,。・:*:・゚ '☆


「……で。何があったの」
 持ち運んでいたベースを壁に預けて、転がった頭の横にすとんと腰を下ろすと、とりあえずはそれだけ尋ねてみる。こういう時はそっとしておくのが一番なのだろうけど、面倒なことに訊かなかったら訊かなかったで後々文句を言われるのだ。まあ、一種の義務だと思えばそこまで苦じゃない。
 誰の前でも毅然とした立ち振る舞いを崩さない我が相棒、ブラックスターは、背もたれの隙間に突っ込んだ顔を上げる事もなく、無言で不機嫌をアピールするのみ。答えが返ってこないところまでがテンプレートだからさして気にはしない。が、面倒に付き合ってやるのだ、ため息くらいは吐かせて貰っても文句はないだろう。
「クロ」
「……」
「何拗ねてんの」
「……拗ねてなんかいないわよ」
「じゃあ質問にはちゃんと答えろよな。何があったの?」
 念を押す様に二回目の問い。丸まっていたクロ猫は、今度はもぞもぞと頭を動かして、鬱陶しげにこちらを見上げる。随分とふてぶてしい猫だなおい。
 睨むだけかと思ったけれど、一応は問いかけに答える気があるらしい。相方は尖らせた唇をわずかに開いて、やがていつもよりワントーン低い声をぽつりと漏らす。
「……しごと」
「は?」
「仕事。またアンタだけだった」
「……ああ、そういう……」
 それだけ答えると、クロはまた背もたれに顔を伏せてしまう。隙間好きだな。猫かよ。
 けどまあ、何が気に入らないのかは一応わかった。要するに、ここ最近俺だけがエディットの仕事で呼ばれているのが大層不満だと。そんな所だろう。歌ってギターを弾く事位しか生きがいの無い奴だから、毎日退屈で仕方がないんだろうな。その点は俺にも似たような部分があるし、同情はする。でも。
「……仕方がないだろ、こればっかりはどうにも出来ないんだ。俺も相手を選べないし、曲だって選べない。お前とはいつもの曲で散々セッションしてるし、マスターもたまには違う組み合わせを試してみたくなったんじゃないの? その内また声がかかるって」
 何とか機嫌を取れないものかと例に挙げたのは、彼女の持ち歌だ。マスターはこの曲と俺たちをよく使ってくれるから、今の収録作業が終わったら揃って呼んでもらえる可能性は高いと踏んでいる。そうすりゃコイツのへそ曲がりも確実に直るだろう。
 ところが、俺の慰めに対する相方の反応は酷いものだった。
「別に一緒に仕事できないのが嫌だなんて一言も言っていないし。自惚れ乙」
「うぬっ……!?」
「ていうか寧ろ何でアンタなの。ここは普通アタシを選ぶところでしょう? アタシの方が踊るの上手いし」
「通常楽曲のダンスのレベルは全モジュール共通ですが?」
「アタシの方がマスターの期待にうまく答えられるし。収録にこんな時間かからないし」
「……それって、遠回しにマスターの腕ディスってねぇ?」
「青のクセに生意気だ!」
「言いがかり!」
 あーもう、面倒くせぇ!
 苛立ちを抑え切れずに自分の頭をぐしゃりとかき回すと、クロはふいっとそっぽを向いてまた無言になってしまう。……本当に面倒くせぇ。


 ブラックスターはイケリンである。そのイメージはひとつも間違っていないし、相方である俺も保証している。
 何が起きても動じないし、人前で涙を流すことも無い。彼女の発する一声は相手の心に真っ直ぐ届き、揺さぶり動かすだけの力を持っている。一言で纏めれば「カッコいい」。それがブラックスターだ。
 ……だが、それと同時にこの相方は、凹むと手に負えなくなるという残念な一面も持ち合わせていた。どう手に負えないかは見ての通り。ソファーの上とか部屋の角みたいな窮屈な場所で丸くなって、気が済むまでひたすら不貞腐れている。どのくらい経てば気が済むのかは彼女の気分と落ち込み具合によって変わるので何とも言えないが……一日で終わる事もあれば、一週間近く続くこともある、とだけ補足しておこう。今回は一体どれだけ時間がかかる事やら。
 とりあえず、これ以上は何を言っても意味がないだろうし暫く放っておくことにしよう。そう結論付けると、部屋にあった本を持って再びソファーに腰を下ろし、無言でパラパラと捲り始める。……一応主張しておくが、傍を離れないのは別にコイツが心配だからじゃなくて、後々文句を言われない為だからな。
 一ページ、二ページ。文字を追うだけの無意味な行為を続けながら、開いた本越しに転がる頭をチラ見する。てっぺんに乗っかる黒いリボンは彼女の内面とリンクしているかのようにへにゃりと元気なく垂れ下がっていて、そのせいか、華奢な割に心強く見える背中もいつもよりちょっとだけ頼りない。こんな姿、普段の「イケリン像」を崇拝しているファンが見たらさぞがっかりする事だろう。いや、それとも「そんなところもステキ♡」なんて言われるオチなのだろうか。今のところ俺の前でしかダメ化してないから、反応はわからないが。
「……なぁ。ホントのところは何があったの? 仕事来ないのだけが原因じゃないんだろ」
 内容は一切入ってこなかった本を閉じてテーブルに放り投げると、ため息交じりにもう一度だけ問い掛ける。
 面倒臭くなるとは言ったが、そもそもこいつが凹むこと自体かなりレアなケースなのだ。それだけに、どの程度突っ込んでどの程度スルーするかの加減が難しいのだが……結局、何もせずに放っておくことも出来ない。
「……べつに、何も無いわよ」
「なんも無くてソファーの隙間に顔埋めるかよ」
「たまたま、つなぎ目の部分が顔に当たってるだけよ」
「ほーほー。じゃあ、埋まったままは邪魔だろうし顔こっちに向けられるよな」
「……このままが落ち着くの」
「隙間が?」
「そういう気分なの! 別にいいでしょ!?」
 威嚇する猫みたいにキシャー、と叫ぶと、クロは足元に転がっていたクッションを引き寄せて、隠す様に頭に乗せてしまう。話すことはもう何もない、とでも言いたげに。そこまでされたら俺も何も言えないけど……。


 ブラックスターはイケリンである。それはきっと誰もが抱いているイメージで、多分、彼女も無意識のうちにそう見えるよう振る舞っている。……でも、そうだよな。ずっと強がっていちゃ、疲れるよな。
 特に理由はないけれど、気分が沈む時くらい俺にだってある。俺の場合は近しい友人に愚痴ってスッキリさせることが多いけれど、音楽が絡まないと壊滅的なコミュ障になるコイツに愚痴る相手なんているはずもなく、結果として、ガキみたいにぶーぶー不貞腐れているのだろう。唯一素を曝け出せる、俺の前だけで。……喜んでいいのか悪いのか、微妙なところだ。
 はぁ、とひとつ息を吐き出すと、クッションの下に手を滑り込ませて金色の髪をくしゃりと絡ませる。身だしなみには無頓着そうだが、意外と手入れをしているのだろう、サラサラと滑りが良い。
 何も言われないのをいいことにそのまま撫でる様に手を動かしていると、流石に気に障ったのか、思い切り手をはらわれた。
「……何」
「別に。慰めてあげてんの」
「頼んでないし」
「頼まれてないし。たまには甘えさせてやるって言ってるんだから、素直に慰められてろよ」
 押し付けられたイメージを保つのがしんどくなったのなら、いくらでもぶつくされていたらいい。俺はそんなお前の事を誰にも話さないし、八つ当たりしたかったら好きなだけすればいい。それを受け止めるのも、相方としての責任――いや、特権だ。
「…………青のクセに生意気だ」
「どういたしまして」
 返ってくる声は刺々しくて、でも、思ったほど嫌でもなさそうで。
 こんな相方の相手をするのも、たまには悪くない。


◇◆◇

落ち込んでブルーになっているブラックスターをよしよしするブルームーンを書きたかった……。
皆が見ていないところではイケリンさんじゃなくなる黒ちゃんも可愛いと思います!
ソファーの隙間ってわかりにくかったかな…三人掛けくらいの分離できるタイプのつもりです。一応。

スポンサーサイト
web拍手 by FC2

はじめに

あおい話 その1

comment iconコメント ( -0 )

コメントの投稿





trackback iconトラックバック ( -0 )

Trackback URL:

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。