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と、いうことで。
久々のモジュール小説です。以前没にしたお茶会の続編的な。
夏の間に完成させたかったなぁ……と思いつつ、まだ暑いから良いよね!と自分を納得させてみます。ほんと筆遅くて……(´;ω;`)

青黒藍蘇に関しては、カップリングとかじゃなく、4人仲良く何気ない日常を過ごしているといったスタンスで書いています。4人で一つ。そんな彼らが大好きです。


「鉄、蘇芳、お邪魔するわよ……って、何やってんのよ……」
「あぁ、黒さん青さん、いらっしゃい」
「いらっしゃい、黒ちゃん青ちゃんっ!」

 待ち構えていた来客たちの登場に、僕は庭にビニール製のシートを広げながらのんびりと答える。同じく庭に下りていた蘇芳は、二人の姿を見るや否や、主人の帰還を喜ぶ子犬の様に縁側にかけのぼり、二人の首元めがけて勢いよく抱きついた。初めて見る人は大抵びっくりするのだけど、これが彼女なりの歓迎なのだ。
 それにしても、転送装置とは便利なものだ。メールを入れてから二人がここに来るのに、10分とかかっていない。おかげでまだ「準備」が終わっていないのだけど……まぁ、あとは竹を調達してくるだけだから、そこまで待たせることもないか。
 一人で勝手に納得して作業を続けていると、首から蘇芳をぶら下げた青さんが、不思議そうな顔で僕に問いかけた。

「……おい、鉄。『大事な用』って何だ?」
「そ……そうよ!すぐに来いっていうから、何か大変な事でも起きたんじゃないかって心配したのよ!なのにシートなんか広げちゃって……何、呑気にピクニックでもするつもり?」

 呆然と僕らの様子を眺めていた黒さんも、青さんの言葉にはっと我に返り、不満を露わにする。まぁ、出来るだけ早く来てもらえる様あんな思わせぶりな文面を送ったのだから、怒られてしまうのも仕方が無いのだけど。
 予想通りの二人の反応に苦笑をこぼしつつ、僕は氷水の入ったバケツから程良く冷えたスイカを取り出す。そしてそれを広げたシートの上に乗せながら、二人の質問に答えた。

「―――…スイカ割りをしましょう」


 軒下に飾られた風鈴が、返事をする様にチリンと鳴った。


蝉しぐれと夏の赤


「スイカ割り、ねぇ……。何が楽しくてこんな事しなくちゃならないのよ……」

 1メートルほどの長さの竹をしかめっ面で眺めながら、黒さんが納得いかなそうに呟く。じゃんけんの結果、一番手は黒さんに決まったのだけど、どうやら乗り気ではないらしい。もともと面倒くさがりな彼女の事だからそれは当然の反応かもしれないけど、このイベントの提案者でもある蘇芳は、彼女の言葉を聞くと盛大に眉を下げた。

「だって黒ちゃん、夏だよ!夏といったらスイカ割りだよ!!ズバッと割って皆で食べたら楽しいじゃない!」
「だーかーらぁ、それが面倒くさいって言ってるの!スイカ食べたかったら普通に包丁で切り分ければいいじゃない。何でそんな回りくどい事するのよ」
「夏だもん!」
「答えになってないわよ!」

 蘇芳は目隠し用の手ぬぐいを握りしめた手をぶんぶんと振って、必死に説得しようとする。残念ながら黒さんには全く効果が無い様だ。そしてそんな二人の姿を、一歩下がった場所から青さんが眺めている。彼は一貫して中立の立場でいるつもりらしい(というか、関わりたくないみたいだ)けど、巻き込まれるのも時間の問題だろう。
 簾のある縁側はともかく、日を遮るもののない庭はじりじりと焼けるように熱い。蝉だってやかましい位に合唱をしている。
 蘇芳一人じゃ黒さんを説得することはできないだろうし、このままじゃ冷やしたスイカも温くなってしまう。……仕方が無い、加勢するか。

「黒さん、ここは僕たちの家です。僕達がルールですよ」

 そっと、それでもしっかりと口を挟む。微笑みは……そう、「ぷらいすれす」っていうやつだ。
 黒さんは唖然とした顔で僕を数秒間見つめると、悔しそうにため息を吐いた。

「あんた、それ反則……ていうか、来客に向かってそういう押し付けってないんじゃない?」
「おや、「客」だなんて心外ですね。僕はお二人をもう家族の様に思っているんですよ」
「うわ……あんたが言うとものすっごく嘘っぽく聞こえるんだけど」
「御冗談を。僕はいたって本気です」
「その言い方が本気に見えな……ちょっと待って!家族の様に思ってくれてるんだったら、あたしの主張も聞き入れられてしかるべきじゃないの!?」
「細かい事は気にしない。ちゃっちゃと割っておやつにしましょう」

 ぱんぱん、と手を叩きながらニコリと笑いかけると、黒さんは苦虫をかみつぶしたように顔をしかめて、やがて「わかったわよ、やればいいんでしょ」と半ば投げやりに答える。
 一見気が強そうな彼女だけど、僕からしてみれば言いくるめるのなんて朝飯前だ。ご愁傷様。


 そんなこんなで、渋る黒さんに目隠しを施し、僕と蘇芳が彼女を挟みこんでぐるぐると回す。スイカ割りには欠かせない事前準備だけど、まさかこんな事をされるとは思わなかったのだろう、黒さんはびっくりしたように声を荒げた。

「ちょ!?待ちなさいよ、こんな事したら目が回って歩きにくいじゃない!」
「何を言っているんです。普通に真直ぐ歩けたらつまらないじゃないですか」
「大丈夫だよ黒ちゃん、スイカがどこにあるかは、私たちがちゃんと教えてあげるから!」
「そうですよ。黒さんは僕たちの指示に従って、ただ力の限り、その竹を降りおろすだけでいいんです」

 両脇から優しく諭すと、黒さんは納得がいかなそう(いや、寧ろ信用していなさそうと言った方が正しいか?)に黙り込んだけど、観念したのか、やがて「はいはい」と頷いて、竹を前へ構えた。そして一歩踏み出す。
 ふらふらと、頼り無い足取りの黒さん。僕たちはそんな彼女の後ろから声を張り上げて、進むべき方向を指示する。
 最初は全く見当はずれな場所に向かっていたけれど、流石は要領の良い彼女の事だ。コツを掴んだらしく、着々と目標物へと近づいている。そして―――…

「いっけぇ黒ちゃん!」
「今ですよ!!」



 降りおろされた棒は、惜しい事にスイカからわずか数センチ右に反れた。


***


「外れたら外れたでなんか悔しい……」
「だいじょーぶ、てっちゃんまで回ったらまた黒ちゃんの番だから!次こそリベンジだよ!」

 あれだけ乗り気ではなかったのに、目隠しを外してこちらに戻ってきた黒さんは、本当に悔しそうに手ぬぐいを蘇芳に渡す。案外負けず嫌いなのかもしれない。
 蘇芳はああ言っているけど、彼女に順番が戻って来る事は恐らくないだろう。まぁ、思ったよりも楽しんでもらえた様でよかった。

「さて、次は青さんの番ですね」

 黒さんが縁側に腰を下ろすのを見届けると、僕はその隣に座る人物に微笑みかける。

「やり方はさっきと一緒ですよ。指示は僕達が出すので、青さんは安心して進んでください」
「あっ!待ってね青ちゃん、今目隠ししてあげるから!」
「あーもうっ、青も外せばいいのに!てか外せ!!」
「黒ちゃん、青ちゃんが可哀想だから間違った方向教えちゃだめだよー?」
「あ、それいいわね!思いっきりかき乱してやるわ」
「……行ってくる」

 未だ失敗した事を根に持っている黒さんに不吉な事を言われて腰が引けたのか、青さんは若干足取り重く庭に出てくる。僕はそんな彼に、蘇芳から受け取った手ぬぐいを被せる。

「―――…さぁて、回しますよ」

 そして僕よりもがっしりとした肩に手をかけて軽く微笑むと、目の前からは若干引き攣った様な気配が漂ってきた。……おやおや、そんな反応をされたら、期待に応えたくなってしまうじゃないか。
 逃がさない様に肩をギュッとつかむと、笑いながらそっと語りかける。

「心配いりませんよ。青さんにはちゃんと、黒さんの倍回ってもらいますから」
「そんなオプションはいらん」
「遠慮しなくても良いんですよ?今なら無償で3倍への変更も」
「……もういい、早くしてくれ」

 黒さんみたいに焦ってくれればまだ可愛げがあるのに、相変わらず青さんはノリが悪い。諦めた様にため息を吐く彼になんだつまらないなぁと肩をすくめると、僕はその身体を思い切り放り投げた。




「青ちゃん、右!右だよー!!」
「あー青そこ左……じゃなかった、前!あ、やっぱ戻って右!」

 ふらふらと進む青さんの後ろから飛び交う3人の声。蘇芳はちゃんと応援してあげている様だけど、黒さんは宣言通り滅茶苦茶な指示を出している。青さんは青さんで、目隠しをされている以上言われた通りに進むしかないらしく、くねくねと全く見当はずれな方向へと誘導されていた。

「ほらどこいってんの、そこ右!」
「あはは、青ちゃん頑張れー!」
「西に15歩、次に南へ7歩。そのまま右を向いて直進23歩ですよー」
「頼むから指示は一人にしてくれ……!!」

 悲痛な訴えが聞こえた様な気がするけど、きっと気のせいだ。頼り無い背中を遠くから眺めながら、僕らは顔を見合せて笑った。

 青さんの進む先には、僕らが育てている向日葵の花壇がある。日差しを浴びてぐんと背を伸ばすその花は、夏の代名詞と言えるだろう。
 あぁ、でもこのまま花壇に突っ込んだら、花が台無しになっちゃうな。さてどうしようか……。
 そんなことをぼんやりと考えていると、風に吹かれて頭を揺らす向日葵の足元で、何かが動いた気配がした。

(……おや?あれは……)

 猫、にしては身体が大きい。どちらかというと犬に近いだろう。
 生い茂る葉の間からちらりと見えたその姿には、覚えがあった。どうやら、最近仲良くなった恥ずかしがり屋のお客さんが、楽しそうな気配に誘われて山から下りてきたらしい。向日葵の陰からそっと様子を窺っているけれど、見知らぬ人がいるせいで出て来れないのだろう。青さんはもちろん、黒さんや蘇芳もその姿には気付いていないようだ。
 青さんは相変わらずおぼつかない足取りで前へと進む。散々振り回されたせいか、叫ぶ声にも不安がにじむ。

「……おい、スイカはまだなのか!?」
「さーて、どうでしょうね。その辺りなんじゃないの?」
「…………ここで良いんだな?」

 我慢も限界なのか、青さんは構えた竹を振り上げる。
 でも、その先には―――…

「あっ……待って下さい青さん!」
「青ちゃんダメ―――――ッ!!」

 僕が腰を上げると同時に、蘇芳が飛び出した。向日葵の下でがさりと影が動く。そして―――…

 ズサァッ!という大きな音と共に、蘇芳に突進された青さんが地面に滑り込んだ。顔面から突っ込んでしまったらしく、背中には蘇芳が乗っかったままだ。……あぁよかった、花壇はギリギリ無事だ。
 蘇芳が背中から降りて、ようやくむくりと起き上った青さんは、ずり落ちた目隠しを首から外すと、混乱した様子で蘇芳を見る。

「な……なんだ、いきなり……?」
「ダメだよ青ちゃん、危ないじゃない!」

 おや、蘇芳も彼らに気付いていたのだろうか?無事に避難した小さな来客たちの進んでいった方向をちらりと眺めると、蘇芳は花壇の方を指さして、

「せっかく育てたお花を叩いちゃ可哀想だよ!スイカはあっち!!」



 ……どうやら、彼女も気付いていたわけではなかったらしい。



***

「さぁて、次は私だよー!」

 主催且つスイカ割りが大好きな蘇芳は、竹の棒をぶんぶんと振り回してご機嫌な様子だ。
 僕は青さんの鼻に絆創膏を貼りつけながら(蘇芳の突撃をくらった時に擦り剥いたらしい)、黒さんを振り向いてお願いをする。

「黒さん、蘇芳を回すの、手伝ってくれませんか?」
「別にいいけど……それくらいあんた一人でも出来るんじゃないの?」
「まぁ、そうなんですけど……蘇芳は慣れてますからね。出来るだけ多く回さないと、効果が無いんですよ」
「ふぅん……」

 納得したのかしていないのかは分からないけれど、黒さんは立ちあがって蘇芳のもとへと歩いて行く。救急箱をぱたんと閉じて、僕もその後を追う。
 そして目隠しをした蘇芳を二人で挟み込んでぐるんと身体を押すと、蘇芳は案の定きゃっきゃと楽しそうに声を上げた。やっぱり効果はあまりなさそうだ。
 適当なところで止めてスイカの方へ身体を向けてあげると、彼女は棒をすっと構えて歩き出す。少しふらつくけれど、流石慣れているだけある、足取りは先の二人と比べて随分としっかりしている。

「……さて、新しい竹を調達してきますか」
「鉄……?」

 蘇芳の背中を眺めながらぽつりと呟くと、黒さんが訝しげに眉を顰めた。そうか、彼女たちは蘇芳の腕前を知らないのか。

「黒さん、今からちょっと席をはずすので、暫くの間この場をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はぁ……何でまた……」
「見てればわかりますよ」

 ニコリと微笑みかけると、僕は三人に背を向けて裏庭へと向かう。蘇芳の後じゃ、きっとあの棒は使い物にならないだろう。
 そんな事を考えている間にも、背後では「とりゃぁぁぁぁぁ!」と叫ぶ声。
 地面に棒が叩きつけられる大きな音。
 そしてそこから一拍遅れて、メキッ……と何かが張り裂ける様な音が響いた。
 あぁ……やっぱり。またやったか。



***

「まったく……スイカじゃなくて棒の方割ってどうすんのよ……」

 呆れた様な黒さんの視線の先では、無残な姿となった竹の棒が力尽きた様に地面に転がっていた。……そう。こう見えて蘇芳は、棒を叩き割る達人なのだ。

「うぅーん、今回は加減したつもりなんだけどなぁ……」
「あれで加減って、あんた普段どれだけ力入れてんの」
「ずばっとびしっと!」
「意味わからない」
「だって、スイカは固いんだよ!ちょっと当たっただけじゃヒビも入らないんだよ!どうせ割るんだったら一発で綺麗に割りたいじゃん」
「はずしてるじゃない」

 黒さんの的確な指摘に、蘇芳はぐぬぬ、と口籠る。そして絞り出すように「次は当てるもん!」と宣言。
 うん、確かにちゃんと当たれば見事に割れるのかもしれないけれど、スイカが粉々になりそうだからやめてほしい。

「……さて、最後は僕の番ですね」

 新しくとってきた竹を拾い上げると、僕は指定の位置まで進む。手ぬぐいを持った蘇芳と黒さんが後ろからついてきた。
 ……あぁそうだ。

「黒さん。リベンジに燃えている手前申し訳ありませんが、ここで決着をつけさせてもらいますよ。あのスイカは僕が割ります」
「うわ、何その自信。すっごい腹立つ……」

 後でがっかりさせない様念のために忠告しておくと、黒さんはまるで親の仇でも見る様にじとっと僕を睨んだ。うーん、これ以上言うと本気で嫌われそうだな。
 まいったなぁと苦笑を漏らし、蘇芳に身を任せて目隠しをされる。これで視界に映るものは何一つなくなった。がさごそと動く周囲の気配だけが頼りだ。
 そして僕を挟みこんだ二人が、僕をぐるぐると回し始めた。気持ち黒さん側に力が入っているようだけど……まぁ、気にするほどでもないか。
 両脇から止められて、棒を構える。そしてゆっくりと深呼吸をし、意識を集中させる。日ごろの鍛錬の成果の見せ所だ。
 一歩前へ踏み出す。その瞬間足元がぐらりと揺れたけど、慌てずに体制を整える。……うん、大丈夫。いけそうだ。
 後ろからは蘇芳と黒さん、そして時々青さんが、それぞれ進む方向を叫んでいる。その声すらも意識の隅に追いやって、僕はただ目的の気配を探した。
 一歩、また一歩。進むたびに、目の前にぼんやりと丸い気配が浮かんでくる。進むべき方向は定まった。
 棒の長さからすると、この辺りが妥当だろうか。立ち止まると、僕は一呼吸置いて棒をゆっくりと持ち上げた。空気がぴんと張る。そして目の前の気配めがけて思い切り振りおろして―――…




 心地よい衝撃が腕を伝った。





***

「ん――っ、おいしい!」
「本当に割るんだもん、嫌みとしか思えないわよね……」
「まぁまぁ、結果楽しめたんですから、いいじゃないですか」
「……」

 思い思いに雑談をする三人の前に、僕は冷たい麦茶のコップを置く。
 割ったスイカの半分は冷蔵庫に仕舞い、残りを人数分に切り分けて、待ちに待ったおやつの時間だ。
 蘇芳は豪快にも三日月形のスイカにかぶりついている。時々ぷっと種を吐きだして、それを見た黒さんに「こら蘇芳、行儀が悪いわよ!」なんて叱られている。黒さんと青さんは小さく切り分けた方が好みの様だ。服を汚すのは嫌だから、僕も小さい方をいただこう。
 先ほど怖い思いをさせてしまったお詫びとして、小さなお客さんへのお裾分けも裏庭に置いてきた。今頃二人で仲良く分けあっているだろう。

「……よかったね、てっちゃん」

 種を飲みこんだらどうのこうのとまたあらぬ事を吹き込む黒さんと、その言葉にげほげほむせている青さんをぼんやり眺めていると、気持ち悪い位ニコニコとした蘇芳が僕をじっと見ていた。

「黒ちゃんも青ちゃんも喜んでくれたし、すごく楽しかったし!いつものお茶会も良いけど、たまにはこうやってみんなで遊びたいね」
「……そうだね」

 微笑み返すと、蘇芳は満足したようにスイカの攻略へと戻った。意外としっかり見てるんだなぁと感心しながら、僕もスイカを一口かじる。
 「スイカ割りをしよう!」と提案したのは確かに蘇芳だ。だけど、このスイカをいただいた時に、蘇芳と二人で分けるのはもったいないなぁ、と思ったのも事実だ。同時に、青さんと黒さんの姿が浮かんだのも。
 くだらない雑談をして、美味しいものを食べて、一緒に笑う。今はこんな口実でも無ければ呼び出す事も出来ないけれど、僕らに与えられた「歌」という役目とはまた別の部分で、彼らと繋がっていられたら……そんな風に、願ってしまうんだ。
 このスイカを食べ終わったら、二人は帰ってしまうのだろうか。いつものお茶会の後に感じる、どこか寂しい気持ちが胸をよぎった時。

「ねぇてっちゃん!花火しようよ!!」

 突然、蘇芳がこちらを向いた。

「花火……?」
「ほら、スイカと一緒に時雨さんがくれたじゃない!四人でやろうよ、きっと楽しいよ!!」
「あぁ……」

 そういえばそんなものもあったっけ、とビニールに包まれた色とりどりの花火の詰合せを思い出す。「二人が喜ぶと思って」と時雨兄さんが持ってきたものだ。
 あの人は使えるものからくだらないものまで、やたらと「お土産」を持ち込んでくるから、正直うんざりしていたのだけど、今回ばかりは感謝しなくてはならないかもしれない。

「それじゃあ、夜になるまでの間、二人にはここで待ってもらわなければだね」
「てっちゃん、お夕飯は流しそうめんがいいな」
「あぁ、それなら、さっき蘇芳が竹を真っ二つにしてくれたから、それを利用できるね」
「わぁい!……黒ちゃん青ちゃん、夕飯は流しそうめんでその後花火だよ!」

 きゃっきゃとはしゃぎ出した蘇芳を見て苦笑しながら、僕は皮だけになったお皿の片づけを始める。
 来た時と同じように転送装置を使えば、どれだけ遅くなってもほぼ一瞬で帰る事は出来る。でも、せっかく夜までいるのだから、たまには泊まってもらうのも良いんじゃないだろうか。きっと蘇芳が二人を言いくるめてくれるだろう。
 まずは四人分のめんつゆを用意して、流し台を作って……明日の朝ごはんは何にしようか。居間を片付ければ、四枚くらいは布団を並べられるだろう。もし黒さんから「男女別が良い!」なんて言われたら…………それはまぁ、仕方が無いか。

 夕方になって日差しは幾分か和らいだけど、相変わらず蝉は元気良く鳴いている。
 いつもより忙しくなりそうな気配にワクワクしながら、僕はお勝手へと足を向けた。


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リク①

あるなつのひのできごと

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