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もはや忘れ去られているのではないかとビクビクしていますが、5月に一周年記念企画と題して募集したリクエストを、少しずつ消化していこうと思います。放置し過ぎですみませんでした……orz
まずは、マイコさんからのリクエストでキモリンちゃん×クーレンくんです!
リンちゃんを気持ち悪くしようと思っても、普通に可愛くなる不思議。レン君はレン君で、クールを通り越してコールドだよ!\(^o^)/
ちゃんとリクエストに添えているかはわかりませんが、楽しく書かせていただきました。リクありがとうございました(*´▽`*)



愛情苦味プラス

 落ち着いた午後のひと時ほど譜読みに相応しい時間はないだろう。加えて、今日はいつも邪魔をしてくる人物が外出中だ。この機会を有効に使わない手はない。
 窓からは心地よい風。湯気を立てるホットコーヒー(ミルク入り)。ヘッドセットから流れるのは、今度歌う事になっている、しっとり心に沁みるロックバラードだ。
 切なくも激しいピアノにギターが重なり、クレッシェンド。ここはサビに向けて盛り上がっていく大事なところだから、感情表現もしっかりと。
 サビに入るとドラムも存在感を増す。バックの音楽に負けない様、声をしっかり張り上げて。この辺りの高音は擦れる位が丁度いいかもしれない。
 さらさらと楽譜にメモ書きしながら曲を聴いていると、廊下の方からバタバタバタ……と平べったいドラムロールが重なった。とりあえず傍らに置いてあったマグカップを取って、程良い温さになったコーヒーを一口。ドラムロールは次第にこちらに近づいて来て……

「たっだいまぁー!会いたかったよレンくんっ!」

 シンバルの一発、にしてはくぐもった音でドアが開き、勢いよく飛び込んできた黄色い物体を、ボクは身体を反らしてひらりと避けた。

「ふぐっ!?」

 そして目の前を通過していったその「黄色い物体」は、ベッドの下に落ちていたクッションに頭から綺麗に突っ込んだ。ベストなタイミングで音楽が終わる。
 ヘッドセットからMIDIデータを抜き取って楽譜を畳んでいると、「物体」がむくりと起き上った。そしてぐるんとこっちに顔を向け、「信じられない」といった表情で叫ぶ。鼻から流れている赤いものは見なかった事にしよう。

「レンくん!抱きつけなかったよ!!」
「あーそうだね。残念だったね」
「おかえりは?おかえりのちゅーは!?」
「そんなものはありません」
「うぅ、3時間も離れてて寂しかったよレンくん……」

 のそのそと近寄ってきた「物体」――――リンは、僕の腕にぴったりと張り付いて、ほぅ、と息を漏らした。あ、ちょっと、鼻血つけないでよね。

「はぁぁぁ……レンくん充なう」
「そんなことで充実しなくて良いから」
「充電の方の充だよぉ」
「あ、そ……」

 あげく赤い跡の残る鼻を僕の首筋まで近付けて、ひくひくと動かす始末だ。にへらと幸せそうに頬がゆるむ。ちょっと意味がわからない。
 あーあ、せっかく優雅な一日を送れると思ったのになぁ。
 一人のびのびと譜読みをする計画は、予想外に早く帰ってきた相方に見事なまでに打ち砕かれてしまった。

「それで。仕事の方はどうだったの?」

 マジックテープみたいにみっちり密着している身体をべりべりと剥がしながら問うと、リンは一瞬だけ名残惜しそうな顔をして、でもすぐ笑顔になって答える。

「うん、順調だよ!」
「そ。今日はPVの撮影だっけ?」
「そーなの!頑張ったからすぐに撮り終わっちゃったよ」
「あー、それで早かったのね……」

 別にじっくり時間をかけてくれてもよかったのになぁ、という独り言は心の中だけに。彼女だってボーカロイドだ。いくら性格に難ありでも、仕事に関しては真剣だという事くらいわかっている。その点はボクもちゃんと評価しているさ。

「それでね、レンくんにお土産持って来たんだよ!」

 やけに嬉しそうな顔でそう言うと、リンはクッションに顔面ダイブした時に放り投げたままだったボストンバックを拾い上げ(あれ、そういえば今朝出かける時はこんなもの持ってなかった気が……)、ジッパーをじりじりと開く。
 そして中から取り出したのは……

「あー…………」

 真っ黒なワンピースに、フリルのついたエプロン。どこぞの喫茶店では、これを着用した物好きな人たちが笑顔で出迎えてくれたりもするらしい。要するにメイド服だ。
 うん、まぁ、何となく嫌な予感はしていたけど、案の定これかよ……。

「えっとね、他にも沢山あるんだよ!」

 そんなボクの心情なんか微塵も知らず、リンはにたにたと気色悪く笑いながらボクへの「お土産」を床に積み上げていく。ナース服、セーラー服(女子用)、スクール水着(言うまでもなく女子用)……あぁ、何か頭が痛くなってきた。
 一番上に積まれていた比較的清楚なワンピースを拾い上げると、念のため……本当に念のため、リンに問いかける。

「……これ、何?」
「えっとね、マスターと衣装を選んでいる時にもらってきたの!資料用にダウンロードしたものだからお外に着ていく事はできないけど、ここでな」
「あーうん、却下」
「何で!?まだ何も言ってないよ!!」
「言わなくてもわかるから」

 驚愕に染まるリンの顔を見て、ボクはぐったりと頭を抱えた。まったく、マスターも何やってるんだよ本当に。

「だいたい、そのカメラは何?」
「これ?これはもちろん、ナースやメイドさんになったレンくんを画面に納めるた」
「うんやっぱ却下」
「そんなぁ……」

 そんな風に瞳をうるうるさせても、残念ながらボクには効果はないよ。
 リンからの無言の訴えを振り払う様に再び楽譜を広げると、ボクはさっき書きこんだメモの復習を始めた。さて、集中集中……。

 相手にしない事でリンがまたうるさくなるかな、と思ったけど、意外にも彼女は大人しい。このまま静かにしててくれたらありがたいんだけどなぁ、なんて思ってる間にも1ページ目の確認が終わって、カサリとページを捲る。
 そして2ページ目の真ん中あたりに来たところで、セーラー服の袖がくいっと引かれた。

「……どうしても、ダメ?」

 頭のてっぺんのリボンまでしょんぼりとさせて、上目づかいでボクを見るリン。そんなもの効果は……効果、は―――…

「…………仕方が無いなぁ。一着だけね」

 湧きあがって来る悔しさを胸の奥に押し込めて、重い溜息と共にそれだけ告げる。
 すると、リンはさっきまで萎れていたのが嘘みたいにぱぁぁ、と顔を輝かせて、思いきりバンザイをした。

「やったぁ!ありがとう、レンくん!!」
「ただし撮影禁止」
「がびんっ!」
「それと、着替え中は部屋から出る様に」
「えぇー……レンくんのお」
「はい、出てけー」

 これ以上余計な事をしゃべらせない様、ぐずる相方の背中をぐいぐいと押して、無理やり部屋から追い出す。そして部屋の中央に積み上げられた衣装の中から一番マシそうなものを選ぶと、隠す事もなく思い切り溜息を吐いた。
 バカバカしい。何でボクがこんな事をしなくちゃならないんだろう。
 だいたいどうして女モノなんだ?ボクは男だ。衣装を持ってくるんだったら、もっとカッコイイものにしてほしい。こんなひらひらフリフリした服を着るなんて、拷問か罰ゲームでしかないだろ。付き合ってられない。


 ……られない、と、思っていたはずなのに。結局はこうやって願いを聞き入れてしまうんだ。

 こんな変わり者の彼女ですら愛おしく思ってしまうボクも、大概どうかしているのかもしれない。


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リク②

モジュ夏!

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